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第106話 宣告
え?発情期来る?俺はドクンと心臓が嫌な音を立てたのを感じた。βの俺にとっては、Ωの発情期というのはエロエロのエロというとんでもないイメージだし、普段のマーキングでさえ正気を保ってられない俺が本能に当てられてしまうというのは、考えただけでゾッとしてしまう。
俺はこの時、自分に発情期が来ないことを何処かで願っていたことに気がついてしまった。
俺はふと、一緒に来たドクターの一人が妙な毒マスクのようなものを口元にはめているのに気がついた。俺が思わずそちらを凝視すると、桂木先生がにっこり笑って言った。
「ああ、彼はαだからね。岳くんのフェロモンを吸い込まない様にしてもらっているんだ。彼は番い持ちだけど、Ωの発情フェロモンが全然効かない訳じゃないから。特に岳くんのフェロモンはちょっと独特で、僕たちも扱いは慎重になってるんだ。
実際ここに連れて来られる時も大変だったよ。岳くんが彼らと一緒で本当に良かった。」
俺は倒れてからの記憶が全然無かったけれど、どうも周囲に迷惑をかけたみたいだ。俺は恐る恐る桂木先生に尋ねた。
「普通と違うって…。」
すると桂木先生はちょっとしまったという顔をして、他の先生たちと視線を交わした。そして、諦めた様に言った。
「Ωが突然発情期が来て、抑制剤の効きが悪くて周囲に影響を与えるってのは、まぁ、あるあるなんだけどね…。岳くんの場合は想像以上だったよ。彼らの機転でΩ対応の救急車を呼んだのが正解だったのは確かだ。
救急車に連れ込まれる際に、岳くんの強烈なフェロモンが周囲に拡がって、そこに馬鹿みたいにαや、βが群がってきたみたいで。彼らが身体を張って救急車が出発出来る様に阻止したんだ。
彼らがそうやって行動できたのは、多少岳くんのフェロモンに慣れてたのと、まぁ根性?かな。救急隊員は既婚Ωや元々反応しにくいβだったけど、彼ら曰くはゾンビ映画の様だったと青褪めてたからね。
病院はαが多いだろう?岳くんは裏口の特別ルートで運んで貰ったほどだ。ふふ、システムSが発動されたのは、何年振りだろうね?ともかく無事にここに辿り着いてくれて僕もホッとしたよ。」
俺がヤバい状況だったのは兎も角、思わず先生に尋ねた。
「それで、あいつらは大丈夫だったんですか!?」
するとマスクマンが、俺にくぐもった声で言った。
「ああ、ちょっと血だらけになっていたけど、傷自体は深くない。彼らの場合は正当防衛だから、罪にならないだろうし。ただ、この件で、君のことがニュースになってしまった。おいおい君が変異Ωとして世間にバレるのを防ぐことは出来ないだろう。君のことを危険なものとして考える人もいるし、反対に注目もされるだろう。私たちはその事を憂慮してるんだ。」
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