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第107話 発情期きた?

 俺はすっかり青褪めていた。俺が発情期のフェロモンを瞬間的に撒き散らしたお陰で、周囲の人がゾンビ化したって?怖すぎだろう!あいつらが守ってくれたみたいだけど、一歩遅ければ俺は街の道路上で複数の人間にレイプされたって事だよな。うわ、想像しただけで絵面がやばい。  ふと、俺は桂木先生を見つめた。肝心な事を聞いてない。 「桂木先生、俺、発情期来たってことですか?だって叶斗と新が俺のこと守るくらいフェロモン出たんですよね?」  桂木先生は腕を組んで顎に手を置いて僕を見つめた。その眼差しはあのにこやかな先生ではなく、研究者のそれだった。 「それが不思議なんだ。確かに救急車を呼んだ時は、とんでもない量のΩのフェロモンが出ていた。病院に到着した際もシステムSを使用するくらいだからね。だから、隔離して応急処置として抑制剤の点滴をしたんだけど。普通はね、点滴したくらいでは、発情期は収まらないんだ。多少遅れるくらいで。  今、岳くんの数値は発情期の始まりくらいだ。とは言え、アルファにはキツイから念のためマスクしてもらってるけれどね。実際岳くんの調子はどうかな。」  俺は自分の身体の感覚を確認した。怠さがあるのはあの店を出る時と変わらない。いや、ちょっとマシかもしれない。俺がそう答えると、桂木先生は二人のドクターに顔を向けて言った。 「もしかしたら、岳くんは変異Ωのラビットケースかもしれない。これだけのホルモンの数値を出していても、この程度で済んでいるからね。やっぱり、あの時の数値は計器ミスではなくて、本当だった様だね。」  二人のドクターが僕をまるで、畏怖と歓喜の混じった様な複雑な視線を投げ掛けるのを感じながら、僕は桂木先生の言葉を待った。先生は咳払いすると僕に話し出した。 「すまない。あまりにもレア中のレアで、こちらもまだ動揺が隠せないんだ。実は岳くんの様なケースは世界でも2例報告されている。番の前提を覆すものなので、研究者の中でも一部の人間にしか知らされていない。  岳くんの発情期のΩホルモンの量は、一般的なケースの何倍も出るんだ。病院に運び込まれたあの時で、5倍は出ていた。流石に岳くんも慣れなくて昏倒してしまったほどだけど。周囲の人間が救急車両を襲うのも無理はない。  その何倍もΩホルモン、いわゆるΩフェロモンが出る体質をラビットケースという。このタイプのΩは、番を数人抱えることが出来て、文字通り多産の傾向だ。まぁ、前提として症例が少ないから、岳くんも絶対とは言えないけどね。  けれど、報告されている二例とも、変異Ωなのは間違いない。…だから、岳くんには色々と覚悟してもらう必要があるかもしれないね?」

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