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第108話 頑丈なネックガード
先生はひとしきり、俺にラビットケースを解説すると、助手のドクターに俺のネックガードを外させた。この先生は見るからにΩのようで、俺に微笑むと言った。
「少し仕様の違う物に変えさせてもらうね?東君のフェロモンが強いから、念のためにもっと頑丈なタイプに変えるから。君も同意の無い番契約は嫌だろう?」
俺は何て答えて良いか分からずに頷くと、じっとされるがままになった。不意にもう一人のドクターが一歩前に出て来て、僕たちはハッと彼に注目した。アルファらしきドクターは自分でも無意識の行動だったらしくて、キョロキョロと俺たちを見ながら二、三歩後ろへ自分から下がった。
桂木先生は彼を見ながら俺に言った。
「ほらね、訓練されて、ちゃんとセーブされてる筈の彼でさえこの始末だ。岳くんのフェロモンは本当に凄い。ちょっとだけ今時点の採血させてくれる?終わったら、部屋を移動して発情期に備えよう。」
俺はハッとして桂木先生を見た。
「今は薬で自覚がないだけで、これから苦しいほどの発情が始まるんだ。特に初めては大変かもしれない。…その時にあの二人に協力してもらうのは良いよね?大丈夫そう?」
俺は全然覚悟はなかったけれど、採血されながら確かに何か身体の奥に渦巻く熱を感じ始めていた。苦しい?それは嫌だな…。俺は顔を上げて、先生に尋ねた。
「俺一体どうしたら…。」
先生は同情めいた表情で、俺に言った。
「岳くんはたぶん飛んじゃうから、二人に任せて。こう考えると、岳くんのマーキング相手が二人で正解だったかもしれない。…あと、万が一、二人でも間に合わない場合は、灰原君でも良いかな。全然知らないアルファより、少しでも面識がある方が良いと思うんだけど。彼はΩの対応には慣れてるから。どうかな。」
俺は二人で足りないってどういう事なのか、これ以上怖い情報を知りたくなかった。慌てて頷いて同意すると、先生はにっこり微笑んで、インターホンを鳴らすと看護師を呼んだ。
それから俺は厳重な管理の元、車椅子に乗せられて別棟へ続く長い廊下を看護師と桂木先生に連れられて行った。まるでホテルの様な並びの扉の前に立ち止まって、先生がプッシュボタンを長々と押すとカチリと解錠した。
俺が車椅子から降りると、先生が言った。
「ほら、中で彼らが待ってるから。必要なものは玄関に専属の係がその都度届けることになっている。岳くんが出来なくても、彼らが何とかしてくれると思うよ。緊急の際は部屋の赤いボタンを押すか、電話して連絡してね。ではグッドラック。」
そう言うと、玄関のドアは俺ひとり取り残してバタンと無常にも閉まった。部屋の奥の扉が空いて、誰かの気配がした。俺はその時ゾワゾワと身体に鳥肌が立つのが分かった。そして同時に身体の奥の熱がぶわりと燃え上がるのも。
振り返ると、仕切りのドアを開けて叶斗と新がいつもの顔で立っていた。
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