111 / 137

第111話 朦朧と覚醒と

 終わりの無い快感に、俺は意識も身体も溶かされてぐったりとベッドに突っ伏した。焼け付く様な欲望が満たされると、不意に我にかえる瞬間があるものの、それは気絶する様に睡魔に襲われると言った具合で、本当に寝ても覚めてもだ。  新に抱き抱えられて、温かな湯船に一緒に入ると、優しく顔を拭われて、妙に甘やかされている気分になる。元々俺を世話する様なところはあった様な気がするけれど…。俺は重たい瞼を開けて尋ねた。 「…なんか俺甘やかされてる?かと言って俺も動けるわけじゃないけど…。」  すると新は俺の首筋に鼻を押し当てて息を深く吸い込んだ。 「多分ここから、岳をめちゃくちゃに可愛がりたい気持ちになるものが出てるんじゃないか?」  俺は苦笑して呟いた。 「それってフェロモンだろ?」  すると意外な答えが返って来た。 「…ちょっと違うんだよな。俺もアルファだから、Ωの発情期に付き合った経験がないわけじゃない。勿論発散の相手としてな。その時は勿論フェロモンに煽られて、性欲をぶつけ合った。でもそれだけだ。  岳に感じる様な、庇護欲というか、めちゃくちゃ可愛がりたい気持ちにはなった事は無いんだ。運命の番ならそうなるかもしれないんだろうけど。今の時代、運命の番ってのも一種の都市伝説的なものになってるだろう?」  そう言って湯船で呑気に話してたのも短い間だけだった。あのゾワゾワする様な鳥肌と共に、焼ける様な焦燥感が湧き上がって来た。 「岳、また欲しくなったのか…?」  そう言って浴室からバスローブを引っ掛けた俺を抱き寄せながら、甘やかに口付けてきた。俺は新のガッシリとした裸に抱きついて呻きながら、口づけを欲しがった。新の甘い味がもっと欲しくて堪らなかった。  アルファの体液は俺の焼き付く欲望を鎮める効果があった。それが多ければ多いほど、俺の正気に返る時間は段々と長くなった。アルファ無しで発情期を乗り切るなんて、俺には想像も出来ない。それとも俺は甘えているのかな。 「あー、また始まっちゃった?こっちまで匂ってきたよ、岳のいい匂い。新、ベッド綺麗にしたから、ゆっくり鎮めてやってよ。俺は一人寂しく風呂入ってくるよ。」  叶斗がそう言いながら、俺たちの後ろを通って浴室へ向かった。さっきまで散々叶斗と睦み合っていた記憶はあるので、二人である意味交互に俺の相手をしてくれているって事なのか。俺は不意に、新から顔を離して、甘やかな眼差しで俺を見つめる精悍な顔を見つめて言った。 「そう言えば、俺ってラビットケースだって。俺はアルファを食い散らかす悪いΩだ、きっと。」

ともだちにシェアしよう!