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第113話 発情期の終わり

 正気で居られる時間が長くなるにつれて、俺は自分を支配していた、焦げる様な欲望を少しは意識下に置くことが出来るようになって来た。一方でそれは自覚しながらの交わりになるので、キレるまでは羞恥心を感じるものになって、それはそれで居た堪れない。  マーキングの時もそうだったけれど、夢中になって仕舞えば、俺はすっかりバカになってしまう。だからそれは、発情期だからなのかは自分では違いが分からなかった。 「ああ、もっと、奥にきて…。」  焦らされて苦しい様な快感に支配されて、俺は甘える様に強請って、口の中も、窄みの奥も重たいそれで支配されるのを喜んでしまう。二人のアルファでは手に余ると感じていたのは想像上の事だったのか、実際は一人のアルファでは俺の渇きはいつまでも燻ってしまっていたかもしれない。  時々意識が浮上した時にソファに座った叶斗が、妙に真剣な表情で新にどうするか聞いていたのは、今考えると灰原さんに来てもらうかどうかという話だったのか。それくらい俺の焼き付く発情は終わりが無かった。  気怠さは続くものの、それでもクリアになった頭を使って冷静に部屋を見回して、ベッドに横になって死んだ様に眠っている二人のアルファを眺めれば、桂木先生の言っていた俺のラビットケースという言葉が示唆した事も理解できてしまう。  俺の発情期は長く激しく、アルファを食い潰す。変異Ωでも特異なタイプなのは間違いない。あの時桂木先生はなんて言ってた?ああ、思い出せない。俺は下半身がすっかり大人しくなっている事にある意味驚いて、そして同時に喜んだ。終わった。多分。  俺はそろそろとベッドから降りると、湯船にバスバブルを入れて湯を張った。身体をサッと洗うと、簡単に垂れ落ちてくる誰のものか分からない白濁を少し指で掻き出すと、泡の湯船に滑り込んだ。  ああ、気持ちが良い。湯船からバスルームを見渡すと扉が無い代わりに、湯気が部屋に行かない様に空気の流れを変える様な何かが吹き出ている様だった。こう見えて高性能なバスルームだ。  一回頭まで沈んで顔を出すと、部屋の方から誰かがふらつきながら歩いて来た。 「叶斗。起きたのか?俺たちどれくらいこの部屋に居たんだろ。流石にもう出られそうだ。俺、発情期終わったみたいだ。」  そう言うと、叶斗がくしゃりと顔を歪めて両手で顔を覆ってしゃがみ込んだ。 「そっか、そっか、終わったんだ!もう、マジで灰原さん頼むしかないって思ってたんだけど!良かった!ああ、岳~!」  そう言いながら急にこっちへやって来るとザブンと湯船に入って来た。俺は妙なテンションの叶斗が、酷くやつれている事に気づいてギョッとしてしまった。 「…叶斗どうしちゃったの?その顔…。」

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