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第114話 やつれたアルファ

 俺がマジマジと叶斗の顔を覗き込むと、明らかにやつれていた。けれどもそれは叶斗を妙に色っぽくしていた。俺は思わず叶斗の唇に舌を這わして囁いた。 「お前、陰のある良い男になったな。」  すると叶斗は満面の笑みで俺を抱き寄せると、俺の唇に触れる様なキスをして言った。 「岳に惚れてもらえるなら、俺頑張っちゃうよ。とは言え、冗談抜きで出ない。もう無理だったから、岳が発情期終わってホッとしたよ~。あの灰原さんにいつ頼むかって、新と葛藤してたんだからぁ。」  俺は陰があっても中身は変わらないなと苦笑して、叶斗の見かけよりも分厚い身体に寄り掛かった。 「俺の発情期って変じゃなかった?叶斗はΩと付き合ったことはなくても、発情期の相手はした事あるんだろう?」  すると、叶斗は俺の腹を撫でながら耳元で呟いた。 「岳がその事を妬いてくれたら良いのにな…。岳はアレだ。山伏で強靭な身体だけあって、普通のΩとは全然違うかもな。だって生まれつきΩの男は隔離されて大事に育てられてるだろ?崖から落ちたりはしないって。」  俺が崖から落ちたことを揶揄ってる叶斗の脇を掴んで、苦しそうに笑う叶斗の吐息を聞きながら、俺は思い切って言った。 「俺は普通じゃないんだって。ここに来る前に、桂木先生に言われたんだ。店からこの病院に運び込まれた時、お前経験しただろう?俺の危険物扱い。 ここに運ばれた際、この病院の緊急事態対応のシステムSっていう、やばい対応されたらしいよ。俺の発情フェロモン、相当危険らしい。病室に来たアルファのドクター、ガスマスクつけてたくらいだから。」  マジで?と言いながら面白そうに笑う叶斗に、俺は思い切って言った。  「俺、ラビットケースの疑いがあるんだって。番いのアルファが一人じゃ足りなくて、まさにウサギ並みの繁殖力?今回の発情期考えると、二人でも足りないかもしれない。…だろ?」  すると叶斗は俺の肩におでこを寄せて言った。 「…ほんと、岳はレアな男だな。お前の番になるには、ハーレムの一員になるしか無いってことだよなぁ。」  俺は叶斗が、自分達だけで大丈夫だと言わないことに気づいてしまった。やっぱり、相当無理をしたんだろう。未だに新はぶっ倒れたままだし。俺は馬鹿みたいに可笑しくなって、湯面を拳で叩いていった。 「やっぱり俺は凶悪なΩだな。アルファを喰い潰す。」  それは妙に浴室の壁に反響して、俺たちの中に染み渡っていった。

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