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第115話 帰路
「…何かとんでもない事になっちゃったな。」
新幹線の車窓に流れ去る景色を眺めながら、俺は呟いた。大学の見学に行くという高校生らしい東京遠征は、俺の発情期という爆弾に吹っ飛ばされてしまった。けれど、俺を寄りかからせた新が手を繋いで言った。
「一応初日と午前中、大学回っといて良かったな。でも考えようによっては、桂木先生の大学病院で色々管理できて良かったんじゃないか?先生も言ってただろ。初回が突然で酷いのは皆そうだから、次回は予兆があるから、地元でも凌げるだろうって。」
俺は新が俺のこめかみに慰める様に唇を押し当てるのを感じながら、この甘い仕草も継続されるのだろうかと落ち着かない気持ちになった。別に嫌なわけじゃないけれど、素面の俺には恥ずかしい。
それに俺に発情期が来たことは、とっくに学校に広まっている事だろう。Ωの発情期欠席は公休だから。医師の診断書で相手をしたアルファも公休扱いになる。今回は二人のアルファが公休になるという事になるけれど、それがどう言う影響を与えるのか考えるだけで嫌になってきた。
「俺もさっき東京の友人からのメッセージ確認して知ったんだが、岳の事はかなり話題になってるみたいだ。あの店を出た時、パニックになっただろ?流石に俺たちの顔や名前は伏せられていたけどな、俺が関与してるのかって探りのメッセージがやたら来てる。」
俺は桂木先生に見せてもらったネットニュースを思い出した。確かに事件でも起きたかの様な惨状に俺も息を呑んだ。先生が俺をじっと見つめて言った言葉がありありと思い出された。
『岳くんには、出来るだけ早く番いを決めてもらった方が良いと思うよ。それはこうしたトラブルを減らすと言う意味もあるけど、そればかりじゃない。君の様な特殊なΩを欲しがる人や組織が、国内だけじゃなくて世界にもいるってことだよ。
君の身の安全を考えたら、そこの所を真剣に考えて欲しい。この事は高原ドクターを通して君のお父さんにも伝えてある。よく話し合ってくれ。僕も出来るだけ相談に乗るから。』
こいつらはそこには居なかったから、こんな話になっている事は知らないはずだ。もし俺が頼んだら、こいつらは俺と番ってくれるのかな…。
俺はため息をついて、新の手の温かさを感じつつ、ぐっすりと隣で眠る叶斗の安らかな寝息を聴きながら、地元に到着するまでの束の間の静けさに身を委ねた。
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