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第117話 いつもの朝?

 父さんの心配も分かるけど、あの二人と番うのはどうなのかとダイレクトに尋ねられると、何とも言えない気分になる。βは番の観念が無いから余計なんだけど、親に性的なことまで言われる様な気がして、何だか居た堪れない。  とは言え自分でもどうしたら良いのか分からなかった。今考えるとそんな余裕をかましていたのも、その朝までの事だった。俺はいつもの様にバス停に新が待ってるのを、半分呆れて、半分密かに喜んで言った。  「自分のバス停から乗れば良いのに…。でも俺のためならありがと。」  すると新はニヤっと笑って、俺の手を取った。それ以上は何も言わなかったけれど、熱い手のひらが何も言わなくても語っているようだった。  俺も素直に手を引かれてバスに乗り込むのが、随分絆されてる気がするけど、抗う気にはならなかった。一番奥の座席に座って隣に座った新が、機嫌良く俺の手を撫でているのが、ちょっとオッサンみたいだと可笑しくなった。  俺がクスクス笑ってると、新が顔を覗き込んで言った。 「岳が朝から笑ってると、俺も良い気分だ。」  そんな新が妙に眩しく見えて、俺は戸惑った。なんか、なんか、俺どうかしてる?鼻歌混じりの新の体温を感じながら、俺はバスの振動に身を任せた。やっぱり、発情期を一緒に過ごしたのが大きいのかもしれない。こうして手を繋いでいる事に妙な安心感を感じる。  いつの間にか高校のバス停に到着していて、俺はやっぱり手を繋がれたままバスを降りた。 「なぁ、いい加減手を離せよ。…学校だぞ。」  新は肩をすくめて、握った手を離さずに俺を見て言った。 「岳は今朝、鏡見たか?」  俺は新が妙な事を言うなと思いながら頷いた。顔を洗って、歯磨きしたレベルでは鏡を見ただろう。じっくり見たわけでもないけど。俺が頷くと、新はマジマジと俺を見つめて言った。  「発情期の時も思ったけど、岳は前より誰にも分かるくらい綺麗になった。αじゃなくても惑わされるくらいにね。」  俺は眉を顰めて新を見返したけど、冗談を言ってるようには見えなかった。Ωは総じて綺麗な人たちだけど、俺もあの感じに仲間入りしたのだろうか。それは何だか面倒くさい気がする。  そのせいで新が俺をますます囲い込みしてるとするなら、街中でもあるまいし、校内でそれって必要なんだろうか。新にそう言おうと口を開いた時、下駄箱の方が何だか騒がしいのに気がついた。  ハッと顔を上げてそちらを睨む新の様子に、俺は釣られるように目をやった。そこには何故か灰原さんが周囲を生徒たちに遠巻きにされながら、にこやかに手を振ってこちらを見ていた。…ああ、悪い予感だ。

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