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第123話 サンプル問題の波乱

 「…で?岳君は他のアルファのサンプルが欲しいって言うのかい?」  困った顔の桂木先生を見つめながら、俺は頷いた。 「先生、俺にはΩ歴が短すぎて、自分が感じる色々な事が正解かどうなのかも判断つかないんです。このままあの二人が望むまま番となっても良いのかも、よく分からないです。  好きですよ、勿論。Ωになってから、その気持ちはきっと最初の頃より大きくなっているのは確かなんです。  でもね、先生。どうやって番う相手を決めるんですか?他のアルファと会って酷く心が騒めいたら、それって浮気になるんですかね。正直灰原さんが側にいるだけで、身体はゾワゾワします。それってどう言う事なんでしょう。  多分俺はさっさと番わないと世の中に迷惑かけるのは間違いないから、焦ってるんです。このままじゃ、受験もどうなるか。」  俺は俯いて、テーブルの上のコーヒーカップから立ち上る湯気を見つめていた。先程、桂木先生が提示してくれた発情期の分析によれば、やはりラビットケースとするのが相応しいという事になった様だ。俺は学会で公表されて、専門家の注目を浴びるのだろう。  先生は名前とか個人情報は出ないという事だったけれど、多分俺の事は調べようと思えば、情報は出るんだろうけど。それはまぁ、俺に限らず誰でもそうだ。  壁に寄り掛かって聞いていた灰原さんは、自分の名前が出て来た時に少し空気を動かしたけれど、それだけで会話に加わることは無かった。高原先生は、困った様に桂木先生と、俺を交互に見つめてどう言って良いか分からない様子だった。  桂木先生はコーヒーをひと口飲むと言った。 「…私が番ったパートナーを選んだ決め手は、何だろうな。交通事故みたいなきっかけだったんだ。実際に事故に遭ったわけじゃなくて、彼に出会った時に僕が昏倒してしまったんだ。あまりにも彼のアルファのオーラに当てられてね。  自分に強く影響するオーラは、結局番になるには良い相手とも言えるんだよ。誠、…灰原はもともと上位アルファでオーラは強い。だから、君の様にラビットケースには良い相手には違いない。  ただ、あの二人も決して弱いアルファじゃない。まだ若いし、どちらかと言うと、君が彼らに慣れているせいで、そこまで影響してないだけだと思うけどね。  普通、君たちの様に、番でもないアルファとオメガが一緒に行動する例は少ないんだよ。そこも、君は変わり種だ。アルファに耐性があるって言うのかな。まぁ、だから君が言う様にマッチングアプリでアルファと出会うのも良いかもしれない。  ただ、そこら辺のアプリはダメだ。やるなら私の紹介するアプリを使ってくれ。…君は本当に面白いよ。」  そう言ってクスッと笑ったんだ。

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