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★サンプリング★ 第126話 誰得
俺は今ピンチかもしれない。明らかに機嫌の悪い叶斗と新が教室の空気を悪くしている。あの相川でさえ、普段弾んで仕方がない口を閉じているくらいだ。
勿論二人は俺の決めた週末の予定が気に入らないのだけど、そうは言ってもサンプルを取ると決めたのだから、こればかりは譲れない。
「…えーと、勿論お試しだからさ?お前たちを無下にしてる訳じゃないんだよ。俺はどうも色々鈍感で分からないから、はっきりさせようと思っただけだから!ていうか、教室で話すことじゃないだろ?」
すると叶斗が腕を組んで言った。
「岳が俺たちを警戒して、三人になろうとしないからだろ?…くそ。分かってるんだけど、分かりたくないだけ。はぁ、どうして岳は鈍感なのかな。しかも相手が悪くないか?」
新は苦々しい顔をして、俺たちの様子に聞き耳を立てているクラスメイトに目をやると、叶斗の肩に手をかけて言った。
「…決めるのは岳だ。勿論俺も黙ってはいないけどね。岳、俺たちを振り回したお礼はしてもらうから、そのつもりでな?」
俺は黒いオーラを撒き散らしている叶斗をなだめてくれた新に感謝すると、とりあえず色々面倒な事になりそうなあれこれが先延ばしになった事にホッとして笑った。
「新、サンキュ。」
不意に新に腕を引かれて、つんのめった俺はすっぽりと新の腕の中に入ってしまった。何事かと顔を上げると、甘やかすようなキスが降りてきて、教室だというのに舌まで入れられてしまった。
昼休みの教室に響く悲鳴と喧騒に、何でもない様子で俺の顎を掴んでもう一度唇を押し当てると、新はニヤリと笑って言った。
「お礼は、少しづつ返済してもらうから。」
まるで悪徳商会のような事を言うと、隣で唖然とした叶斗に文句を言われながら肩をすくめた。タイミングよくチャイムがなって、ますます機嫌の悪くなった叶斗が渋々廊下に出ていくのを見届けると、俺はようやく席に座った。
こんなに授業が楽しみな事、ないんじゃないか?そう眉を顰めていると、相川が振り返って心配そうに言った。
「…なんか、お前も大変な事になってんな。ちょっと同情するわ。」
俺は片手を振って相川に前を向くようにジェスチャーすると、クラスメイトの視線を感じながら、教科書を出した。全く相川にまで心配されるようじゃ終わりじゃないか?
新はともかく、叶斗の機嫌は悪いままだ。俺は放課後が来るのが怖い気持ちで、やっぱりため息をついた。
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