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第127話 叶斗sideムカつく

 分かってる。岳が番を早く決めなきゃいけない事も、俺たち以外のアルファを知らないから比べてみたいという事も、よく分かってる。俺たちだって他のオメガを知ってるから、岳の特異さが分かるんだから。  頭の中でサンプルを取りたいって、冷静に岳から言われた時には一気に頭に血が上った。なんで!なんで岳は俺のこと運命だって分かんないんだ!俺はβの頃から分かってたのに!  けれど俺の怒りは、岳にしてみれば勝手な言い分だと言う事も良く分かってた。だからサンプルを取ると言われた時も不承不承うなずいたんだ。なのによりにも寄って、灰原さんと一泊してくるって事もなげに言うんだから…。  灰原さんは上位アルファなのは間違いないし、しかも岳の事狙ってる。そこまで露骨じゃないけど、じわじわと単純な岳を絡め取っているんだ。狡いやり方だ。そんな事を考えているとスマホが震えた。  点滅するライトの下には新からメッセージが来ていた。 『俺は婿取り合戦から降りる気はない。実際問題、あの発情期、俺たちだけじゃ難しかったのは確かだ。もう一人の枠を考えるのはありだとは思ってる。でもそれ以上枠を増やす気はない。そこは岳に確認したほうが良いんじゃないか?』  さっきキスしたからって、妙に分析してる新のメッセージに俺は顔を顰めると、机にもたれかかった。はぁ、俺はそこまで冷静になれないよ。だからってイライラしてもしょうがないけどな。  俺の醸し出す空気が悪いのか、周囲のクラスメイトが妙にビク付いてる気がして、俺は思わず席から立ち上がると荷物を持って、驚いた顔の先生に体調不良だと言い放って教室を出た。  正直授業など出なくても、困らない。ただ岳の側に居るために高校生してるだけだ。俺は怒りを抱えたまま誰も居ない廊下を歩き出した。岳のクラスの前で立ち止まると、強引に連れ出すのも躊躇われて下駄箱に足を向けた。  下駄箱からお気に入りのブランドコラボのシューズを床に放り出すと、ドカリとしゃがみ込んだ。あんなに気に入っていた靴も、今の俺にとってはどうでも良いものだった。俺が欲しいのは、岳だけだ。何で岳には俺の気持ちが分からないんだろう。  その時、誰かが歩く足音が耳に届いた。見るとも無しにそちらへ顔を向けると、リュックを持った岳が呆れた顔で立っていた。 「…岳。」

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