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第128話 怒れる叶斗を手懐ける方法
教室の外の廊下からイラついた足音がして、俺は顔を上げた。曇りガラス越しの、教室の扉の向こうに居るのは背格好からして叶斗なのか?
俺は今にも扉を開けて叶斗が入ってくるんじゃないかと、妙な緊張感で手を握りしめた。けれど、その姿は不意に歩き出して遠ざかって行った。その時に感じたのはどんな感情だっただろう。
俺は次の瞬間、教科書をリュックにしまうと、チラッと後ろの席の新を見てから先生に早退すると言って教室を出ていた。廊下にはもう叶斗の姿はなくて、焦る気持ちで階段を駆け降りた。
何だか、このまま叶斗を一人で帰しちゃいけない気がしたんだ。下駄箱で不貞腐れたように大きな身体でしゃがみ込んで居る叶斗を見つけて、俺は安堵で笑えてきた。あいつマジで子供みたいだな。
呼びかけると、びっくりしたような顔で俺を見上げる叶斗の側に自分の靴を置くと、一人先に履いて歩き出した。まだ呆然と座り込んで俺を見てる叶斗に、横顔だけ向けて言った。
「何だサボるんだろ?来ないの?」
慌てて靴を履く音がして、近づいては来るものの横に並ばない。丁度その時俺のポケットのスマホが震えた。
『叶斗も分かってるから。上見ろ。』
俺が校舎のクラス窓を見上げると、窓際の新が手を振っていた。全くあいつは時々凄いスマートな事するんだよな。俺も手を振りかえすと、俺たちは裏門から校舎を後にした。
まだ俺の隣に来ない叶斗に呆れて立ち止まると、叶斗もまた少し後ろで立ち止まった。俺は振り返って言った。
「なぁ、俺と二人だけでホテル行ってないよな。行く?」
すると顔を赤らめて俯いた叶斗は、呻く様に呟いた。
「…岳は狡い。そんな事で誤魔化されないんだから。」
俺は叶斗に近寄ると、腰に手を回して言った。
「俺が狡いって?そうだよ、知らなかった?俺は変異Ωだからね、普通のΩの振る舞いなんてクソ喰らえだし、正直アルファも同じだ。でも、叶斗と新は特別扱いしてると思うけどね。足りない?」
叶斗は俺の顔をじっと見つめてたけど、大きくため息をつくと諦めた様に言った。
「岳がこんなに譲歩してくれてるんだから、乗るべきなんだろうな。俺が好きになったΩはどうしてこんなに複雑なんだろ。でも、だから大好きなんだ。
いつもの岳なら絶対忘れたふりしてるホテルの一件も、こうやって俺のために提案してくれてるんだから、俺ちょっとは自惚れても良いって事だろ?」
そう言って、俺をぎゅっと縋り付く様に抱きしめた。そうだな。俺は狡いΩだけど、お前のことは特別に思ってるよ。
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