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第129話 すっかりご機嫌な叶斗
さっきまでの機嫌の悪さは何処へやら、気づけば俺たちはホテルの中に入っていた。制服を着たままホテルに入るのは少し躊躇われたけれど、何か言われるわけでも無かった。
こんな昼間だと言うのに空いてるのは4部屋ほどで、ほとんどの部屋が利用中でランプが消えているのを見れば、今むつみあっているカップルが一定数いるのだと思うと、少し面白かった。
叶斗はその中で一番良い部屋を選ぶと、俺を引き寄せて言った。
「この部屋で良い?一番良い部屋は埋まってるみたいだから、ここで勘弁な。」
俺は叶斗を見上げて、口を尖らせた。
「まるで俺が我儘言ってるみたいじゃん。…俺、自分で誘っておいて手持ち三千円しかないけど、残り出してくれる?」
そう言うと、叶斗は俺をじっと見てにっこり笑って呟いた。
「俺の金目当てで近寄ってきた奴らよ、聞け。俺の愛する男は、金には目もくれない男だ。」
俺は思わず笑って言った。
「叶斗は確かに金持ちだけどさ、叶斗に近寄ってきた奴らは、お金より叶斗目当てだと思うけどね。」
叶斗は笑っている俺の腰を抱き寄せて歩き出しながら、甘い声で言った。
「ふうん。じゃあ、岳は俺の何目当て?」
俺は思わず、悪ふざけの延長の気持ちでうっかり口走ってしまった。
「俺はお前の身体目当て。なーんてな…。あ、おい、ううんっ!」
部屋にたどり着く前に、俺は叶斗に貪られていた。甘やかに押しつけられた柔らかな唇に、あっという間に蕩けさせられて、俺は膝が緩んで立っていられない。
不意にすぐ後ろの部屋の扉が開いた気がして、俺たちは慌てて自分達の部屋へと飛び込んだ。流石にこんな場所で出くわすカップルと顔を合わせるのは気まず過ぎる。
部屋に入ると、俺たちは顔を見合わせて笑い合った。すっかり叶斗の機嫌も治ったみたいでホッとした。靴を脱ぐと、叶斗に手を引かれて部屋に入った。
広すぎるジャグジーバス付きの浴室と、アメニティの充実した洗面所。大画面のテレビにセルフのコーヒードリップ。ホテルは違えど、揃っているものはそう変わりなかった。ただ、この部屋には大人の玩具の自販機がついていた。
俺たちはぐるっとひと通り見て回った後、興味深々に自販機の中身を精査した。
「バイブだろ、これって。」
俺は初めて見る大人の玩具を興味深く眺めた。小さいのも大きいのも色々あって、値段もピンキリだ。そんな俺をニヤニヤして見ていた叶斗は、小さなバイブらしきモノをボタンを押して選ぶと、梱包された玩具を取り出した。
「これ、使おうか。今日はゆっくりで良いんだろ?」
そうギラついた顔で俺を見つめる叶斗は、すっかりやる気満々だ。心なしかフェロモンを飛ばしてるのか、俺の身体もズキズキうるさい。俺はゴクリと喉を鳴らすと、制服のジャケットを脱ぎながら言った。
「そんなの使ったことないんだけど。…怖いことはしないで。」
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