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第134話 ちょっとした小旅行?
車は一気に走り出した。灰原さん曰くせっかくだから、少し遠出しようと考えてくれているみたいだ。車はあっという間に高速道路に乗って、次々に車を追い越して行く。
「どうせならリゾートデートもいいかなと思ってね。私も最近働き詰めだったから、岳君と一緒に楽しめるならご褒美だなって。到着してのお楽しみで良いかな。」
そう言って楽しげに灰原さんは車を運転している。桃李に乗せてもらう街乗りの車と違う大型の高級車は、スピードを出しているのに振動がなくて、俺はその乗り心地の良さにすっかりリラックスして居た。
「俺もドライブなんて本当久しぶりです。従兄弟が免許とった時にしょっちゅう付き合わされてましたけど、最近は慣れたのか誘われなくなったし。まぁ、彼女も出来たし、俺はお払い箱になったんですよ。」
灰原さんは前を向きながらクスクス笑った。
「その従兄弟さんがβでよかったなぁ。アルファだったら、岳君に抗えなかったと思うよ?たとえ従兄弟でもね。岳君は今まで付き合ってた人はいたの?その、変異前に。」
俺はやっぱり前を向いて言った。
「いえ、いませんね。俺、基本他人に興味無いっていうか。山伏の修行にハマってたから自分に向き合うのに忙しくって。実際人と関わるのって面倒臭いでしょ。父親も忙しかったし、山伏の修行さえあれば、寂しいとか感じなかったんです。
でも、最近はあいつらが関わってくるし、色々な人に面倒かけてるから面倒だからって逃げるわけにも行かなくなって。それはそれで、前の様な生活に戻れるかって言ったらもう無理かなって。あいつらの暑苦しさに慣らされちゃったのかな。」
灰原さんは黙って聞いてくれて居たけれど、そう言えば何で俺はここまで色々曝け出して話しているのかと、チラッと灰原さんの横顔を見た。灰原さんは俺に目を流して言った。
「何?何か私に言いたげだ。」
俺は肩をすくめて言った。
「そう言うところですよね。何か話さなくても良いことまで話しちゃうのは、灰原さんのテクニックなのかなって。」
するとクスクス笑いながら、灰原さんはハンドルを切って降り口へとレーンを移動すると口を開いた。
「人徳だとは言ってくれないのかな。さあ、そろそろ着くよ。あまり遠くには行けないけど、山に親しむ岳君には海かなと思ってね。流石に泳ぐには冷たいけど、散策にはぴったりだ。それにホテルにはプールもあるし。週末を楽しもう、岳君。」
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