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「そうですね…今ユンファさんはポリエステルの、おそらくは薄い生地のカッターシャツでも着ているのでしょうが、そのカッターシャツの硬い襟の下に…――厚い革素材の、何 か を着けてらっしゃるでしょう」
「………、…」
ドッと、僕の心臓が大きく不穏に跳ねた。――僕の背中に刺さるような視 線 を感じ、じわりと冷や汗が額や背筋に滲んでくる。
しかしこの男性はスラスラと、そのふくよかな口元にも、その形ばかり若々しくも熟年の色を宿した眉にも、声にも、何にもなんの感情も表さず、こう続けてゆくのだ。
「…革の首輪でしょうか。…しかもそれには、おそらく南京錠でも付けられている。――硬いポリエステルと革の擦れる音、それから…首輪のバックルの金属とはまた別の、小さいながら鉄 の 塊 がポリエステルにこすれる音が聞こえました。」
「…………」
僕は自然、上半身を強張らせた。…それどころか椅子にかけている脚も、足の指も凍り付いて固まり、まばたきもできなかった。
もう一ミリだってこの体を動かしてはいけないと、蛇に睨まれたカエルのように。
「――もしやその首輪、ご 自 分 じ ゃ 外 せ な い のでは?」
しかし、冷や汗をかきながら僕が見据えているこの男性は、その実僕のことを睨んではいない。――むしろ四角いサングラスでその目元はよく見えず、それどころかその黒茶のグラスの下で彼は、まぶたをぴっちりと閉ざしているようだった。
なら僕を睨んでいるのは――背後の、カ エ ル だ。…蛇ではないとわかっていても、僕は身を竦めている。
「……いえ、そんなもの着けていませんが……」
僕は“着けていません”と、極めて動揺を隠し、小さな声で嘘をついた。
僕は、そう言わなければならないのだ。
しかし事実、僕はいまたしかに赤い革の首輪、それも、この人の言うとおり南京錠の付いた首輪をしている。
彼はカッターシャツと言ったが、すなわち同じ意味である白いワイシャツの立て襟に触れている、その僕の首に巻かれた赤い首輪は、ネクタイなどしていないために、誰がどう見ようと、隠されもしていないでそこにある。
ただ、たしかに首輪のバックルから垂れ下がるように付いている銀の南京錠ばかりは、閉めた第一ボタンの下あたりにあるのだ。
真 実 はこの赤 だ。――しかし、僕は真っ赤な嘘をついた。
バレていても、それでも彼には見えていないだろうと。
僕の背中に纏わり付いてくるような鋭い視線に、“嘘をつけ”と言葉もなく命 令 さ れ て い る からだ。
ただ、そうした嘘をついてから今にハッと思い直した僕は、そもそもここまでバレて見透かされているのだから、その嘘のつき方は浅はかで悪いものだったと、すぐに言い直す。
「いやというか、…まあ着け、てはいます…着けてはいますが、僕の趣味で、……」
「そうですか」
僕の嘘に、嫌悪感も何も表さないこの人だったが、目の前の男性は少しだけ――その血色の良いふくよかな唇の端を、ほんのわずかだけ、上げた。
「つまり――ユンファさんは、誰 か の 性 奴 隷 なんですね。」
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