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「……、…、…」
僕は自分の頭をガツンとぶん殴られたかのような、ショックを受けた。
訂正した僕の嘘を、彼は嘘だと見抜いている。
この男性は、いやに穏やかな声色で、断定的にそう結論づけてきた。――僕が誰 か の 性 奴 隷 なのだ、と。
ただ、そう断定された僕はまずいと焦り、見えていないのはわかっているにしろ首を横に振る。
「…いえ、ぁ、あの、いえいえ…いえ違います、…」
そうして、僕はまた嘘をついた。
胃のあたりから込み上げてくる震えが、僕の呼吸を小さく乱すようだった。――うろたえてしまう自分の声まで震えていた。…もう今更だろうが、あわやこれ以上バレてしまえば後が恐ろしいと、もう黙っていたほうがいっそいいのかもしれないと、僕は自分の唇を固く引き結んだ。
「……、…、…」
怖い、怖い怖い怖い怖い――ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、…僕のせいだ、僕が上手くやれなかったせいだ、
今にも泣きそうだとうつむくが、全身がガタガタ戦慄 いてしまうのはどうしても抑えきれない。
「…ですが、失礼ながら」と冷ややかに僕へ断る、僕の対面に座った男性は、いやに落ち着き払っている。
「…事前に断っておきますと、もちろんセクハラのつもりはないのですがね…――いやらしく聞こえたら申し訳ないが…」
「……、…、…やめて、…」
もうやめて、――お願いだ、もうやめてくれ、
これ以上真 実 を暴かれてしまったら、――僕はまた暗い押し入れに閉じ込められて、…僕の肉体を陵辱する機械に耐えながら、一日を過ごさなければならないかもしれない。…殴られるかもしれない、喉が潰れるまで、失神するまで勃起を喉奥に押し込まれるかもしれない、全身を鞭打たれるかもしれない、――もうやめて、痛いやめて、熱い、苦しい、怖い、やめてやめてやめて…っ!
「ユンファさんは、両方の乳首に、ニップルピアスも着けてらっしゃいますよね。…それも先ほど聞 こ え ま し た 。」
「……、…、…っ」
同情はおろか、侮蔑の様子もなく淡々とそう告げられた僕は、先ほど自分の内心で決めたとおりに肯定も否定もしないで、震えてしまう唇をぎゅっと合わせたのみだった。
たしかに…僕の両方の乳首には、ピアスがついている。
リング状の直径二センチ、銀色のものだ。――ここまでにかろうじてわかるのは、おそらく僕が今着ているカフェの制服、白いワイシャツとそのピアスが擦れたほんのわずかな音を聞いて、この目の前の男性は僕が乳首にニップルピアスを着けていることを見抜いた、ということである。
「……、…、…」
あ、僕は、まだ、――冷静じゃないか。
そうやって分析できるだけの余裕があるんだから、…大丈夫だ、大丈夫、大丈夫、大丈夫大丈夫大丈夫――。
「…着けていますよね。ピアス」
何も言わなかった僕に、男性は再度確かめるようにそう聞いてきた。――確かめるよう、ではあるが、その調子はほとんど確信的なものであり、僕は静かに脅されたようで、やはり身が竦む。
感情はいらないから、とにかく淡々と冷静に、冷静に、冷静に対処――無視をするのも結局は肯定するようなものだ。僕は顔を伏せたまま、震えている唇を小さく動かす。
「…はい…でも、それも僕の趣味です。実は、いやらしい趣味を持っていて……」
「…そうですか。…いえ、もちろん私は、個人のご趣味がどのようであろうが、何かそのことに口を出すつもりはありません。…その権利もありませんので」
「……、はあ…」
やけに冷静な物言いが、まるで尋問に合っているような居心地の悪さと緊張感を僕にもたらして、全身がひんやりとしてくる。冷や汗がとまらない。
「………、…、…」
ご主人様…どうか助けてください――。
僕は今切実に、カウンターでいまだ黙り込んでいるマスターに、この会話に口を挟んでほしいと願っている。
しかし、いつもはこんなに無口ではないどころか、むしろ饒舌なほうのマスターが何かを喋りだすことはなく、この状態への言及もこれといってなく。
「………、…」
どれほど願えど、どれほど祈れど――僕はいつも、神に救われることがないのだ。
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