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サングラスをかけているその目元はやはりよく見えないが、その輝くようなホワイトブロンドを、上品にもオールバックにセットしたこの男性は今――何か、そのふっくらと艶のある唇を妖しい笑みの形にして、とても楽しそうだ。
「さて…――誰 ですか…?」
こんなに上品そうな紳士が、悪魔的な優しい微笑みを浮かべ、またそのような猫なで声で、僕にそう聞いてきた。
「…………」
しかし誰 と聞かれても、僕は自 分 を 庇 う よ う に 、その誰 か を庇って、真 実 をこの男性へと告げることはできなかった。――それでも彼は、遠慮なく追求を続ける。
「誰 が 。ユンファさんのナカにあるバイブのリモコンを、持っているのですか。」
「……、…」
僕は直感している。
彼はもうすでに、僕のナカにあるバ イ ブ の 持 ち 主 が誰 な の か をわかっている上で、このような質問をしているのだ。
もはや僕が返答する意義などないだろう。
きっと彼にとっては、それが重要なのではない。――ただこの人は、人の罪を暴いて楽しんでいるだけなのだ。
その見えない目で――僕の青ざめた顔に浮かぶ真 実 を、舐めるように見 て 楽しんでいるだけなのだろう。
「……ねえ、ユンファさん…? 誰 ですか…?」
「…………」
僕は何も言わなかった。
顔にしろ体にしろ冷え切って、凍り付いたように固くなり、もう感覚がない。
しかし男性は、わざとねっとりとした猫なで声でゆっくりと、更なる追求をこう続けた。
「教えてください。いったい誰なんでしょうか…、どなたです…? ねえユンファさん…、貴方の――ご 主 人 様 は。」
「………、…」
その実僕は今も、僕の背中に向けられている鋭い視線を感じて気になってはいるが、それでも怖くて振 り 返 る ことはできなかった。
この男性が何も見えていないのはわかっているのだが、それ以上に、普通に視力のある人よりもずっと彼はなにもかもが見 え て い る ような人だ。
ならば、その行動はあわやそれが誰 な の か の答え合わせにもなり得るという、また布ずれの音や、気配なんかでこの人はどうせすべてがわ か っ て し ま う のではという、僕にはそうした妙な警戒心があるのだ。――しかし、いや、そもそももう彼は、おそらくもうわかってはいるのだろうが。
「…………」
僕は自分を守るために――振り返らない。
もう貴方はわかっているのだろう。――もう僕の口から真 実 を告げようが、あるいは嘘を告げようが、彼には何が真 実 で、何が嘘なのか、そのすべてをわかっているのではないか。――事実これまでがそうであったように、わざわざ僕の口から、その真 実 を聞く必要などないだろうに。
たとえ貴方の目に視力はなかったとしても――貴方の目は、孔雀の羽根に付いたあまたの神の目のように、何もかも、この世のすべてが見えているのだろう。
「もう、わかっていらっしゃるんじゃ、ないですか」
神の目を持つ貴方には――もう真 実 が見 え て い る はずだ。
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