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「…早く受け取ってください。――詐欺だと思われても嫌ですから。」
「…は、はあ…」
ケグリ氏もまた理解が追い付いていないようだが、その焦げたクリームパンのような茶色い手を震わせつつも、前を向いたままの男性が差し出す、そのブラックカードを恐る恐る受け取った。――そりゃあブラックカードだ、手も震える。
「…ふふ」
ブラックカードが自らの手から離れると――この怪しげな男性は、その若々しい艶のあるふくよかな唇を、ニヤリとここにきて一番深い笑みの形にした。…すると、その口の横の両頬に小さなエクボが浮かんだ。
それは何か、大人の男性という風貌が突然一変し、若い男の子のいたずらな笑みにも見える。――そうした笑みを口元に浮かべ、ひょいとしたり上がる形の良い濃茶の眉。
「…受け取りましたね。――交渉成立ということで」
「…ぁ、…はぁ、はー全く、わかりましたよ、――ただコイツなんかの話なんてね、そんな、…貴方ほどの方の役に立つとは到底思えませんが? それでもよろしいのですか、ただのオメガですよ、ユンファはただの、そこらへんによく居るようなオメガの性奴隷なんです、まー深い話なんか深ぼりしたところでありませんよ、コイツは四六時中セックスのことしか考えてないバカオメガなんですから、…」
ケグリ氏は一瞬ハッと、やってしまったというような失敗の顔をしたが、すぐにムスッとして僕を睨み付けながらそのように(ツバを飛ばしながら)、僕を見下した言葉をまくし立てて言った。…思うに、わかりやすい負け惜しみの言葉だ。
しかし、そんな言葉程度で考えを曲げるような人ではないこの男性は、僕の予想どおりにすかして。
「…役に立つかどうかは、貴方ではなく、私が決めることです。――マスターは一旦席を外していてください。どうぞ」
「…はいはい。もうどうぞお好きに、ただし、あとでやっぱり役立たずだったからって、料金をいただけないというのだけは困りますよ。」
「まさか。…貴方じゃあるまいに。」
「……、…」
というか、ケグリ氏の許可は(一応)取っても、その取材相手である僕の許可は取らないらしい。
勝手に、この男性の思い通りの方向へとどんどん話が進んでゆく――。
お客様は、神様…です――?
まあとはいえ、別に僕もそれで一向に構わないのだ。
はじめから拒む権利もなかった僕だが、そもそも別に、嫌だという気持ちも特にない。
というかご主人様がこの件を受諾した時点で、彼の性奴隷である僕は、その取材とやらを受けるほかに選択肢はないのだ。
いや…――それにしてもあまりに急な展開だ。
「…………」
僕は、おかしな夢でも見ているんじゃないのか――。
つづく
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