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「…いやもちろん、結婚したなら結婚したなりに、ユンファ君のことはそ の よ う に 扱うよ。――まあ性奴隷になることを君が自ら望むなら、その場合もそ の よ う に 扱うことになるがね…」
ケグリ氏は――自分と僕が結婚した場合は、僕のことを“伴侶”として扱うと言った。…つまり自分と結婚したならば、僕を伴侶として、それ相応に優しく、家族のように扱う、と言いたかったのだと思う。
そして、僕がケグリ氏の“性奴隷”となることを選ぶならば――僕のことは“性奴隷として扱う”と、僕は正直、ケグリ氏は僕になかば自分と結婚することを、脅迫で迫ってきたようなものに感じた。
そもそも…どうして僕なんかとケグリ氏は“結婚”したいのだろう、と、僕が予想していた思 惑 と少し違ったケグリ氏の思 惑 に、僕は当惑した。
「…け、ケグリさん、な、なぜ貴方は…僕と、僕と…? 僕、まだ二十六歳で、…な、なぜ、なぜですか、…なぜ僕なんかと、…なぜ結婚したいんですか…? なんでこんな、っ酷いこと、…」
とはいえ、率直に聞いたところで、どうせ本心の部分で答えるはずもないとはうっすら思いながらも、僕はどうしても聞きざるを得なかった。――今の僕の頭にはとにかく、“なぜ、なぜ、なぜ”しかなかったのだ。
するとケグリ氏は、自分の突き出たハリのあるお腹を左手でゆっくりと上下に擦りながら、僕に向けて意味ありげに目を細めたのだ。
「違うだろう、ユンファ君。――私と結婚したいか、私の性奴隷になりたいのか、どちらにしても君 の 要 望 だろ。…ユンファ君、勘違いしちゃいけない。私は君から頼 ま れ る 側 なのだ。」
「…ぁ、…は…? は…、…――。」
当たり前だが、僕はどちらにしても本音では頼 み た い 訳がないのだ。
どうして好きでもない、自分の父よりも年上で中年の気持ち悪いおじさんに、あのケグリおじさんに、どうして僕が「お願いします、僕と結婚してください」と頼み込まなければならないのか。もしくはこのケグリ氏に、僕が頼み込んで「僕を貴方の性奴隷にしてください」と言えというのか。――正直、僕は憤りに近い感情を覚え、眉に力が入った。そんな僕を見ていたケグリ氏は、気味の悪い薄ら笑いを浮かべた。
「いや、構わんよ。どちらも選ばずとも構わん。――ただ、そうなると…君のお父さんの、借金はどうするのだね。生活もねえ、せっかく自己破産しなくて済むというのに、君の父さんの名前が、国のブラックリストに載るよ。いやぁ、心配だなぁ」
白々しい物言いで、ケグリ氏は僕をそう脅してきた。
目が回る、動悸が速まる、今にも逃げ出したい、“どっちも嫌だ”と叫びたい、今すぐに両親の元に帰りたい、怖い、どうして僕が、これは現実なのか、結婚か性奴隷? どうして、よりによって、どうして、なぜ、なぜ父さんの会社が、どうしてケグリおじさんが、あんなに優しい人だったのに、どうして、どうしてどうして、――僕の頭はパンクしそうだった。ひたすら“どうして”という言葉ばかりが浮かんで、――気が付いたときに僕は、両手で口を押さえていた。
「うグっ…、おぇぇ…――ッ!」
限界だったんだろう。――僕は、あまりのストレスからか、その場で吐いてしまった。
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