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27※
「――それからのことはよく覚えていないんです。…ただ…、ただ、少なくとも戻してしまった僕に、さすがのケグリ氏も慌てたようで、――僕は気が付いたら、このカフェ“KAWA's”の二階、ケグリ氏たちが住んでいる居住スペースの、寝室らしい場所に寝かされていて……」
僕は何か、他人の記憶を語っている気分だった。
まるで自分の過去を語っている人の気持ちではなかった。――そ の 人 の 経 験 を俯瞰して見ていた神のように、今僕はやけに落ち着いた気持ちだ。
「どうやってあの部屋に来たのかもわからないが、戻してしまったときにはさすがに水を飲ませてもらい、介抱されていたような気はします。…それで、そうして気が付いたときには、僕は吐き疲れて眠ってしまったらしくて…――次にうっすら目を覚ましたときにはもう、誰か…最初はケグリ氏だと思っていたんですが、別の男性…ケグリ氏のご長男である、ズテジ氏に全身を舐め回されていました。」
僕は、真っ暗闇に染まったあの部屋で――次に目を覚ましたときにはもう、誰 か にのしかかられていた。
それこそ本当に、体中をなめくじが這っているようだった。――乳首を強く吸われると、『んっ…いた、やめて…』と思わず声が出た。本当に痛い、と思ったのだ。
何 を、ど う い う 目 的 でされているのか――僕は全てわかってはいたが、本能的に身の危険を覚えて、一応抵抗もした。
ただ、真っ暗闇の中で僕は、ベッドヘッドに両手を縛り付けられていた。脚を閉ざすことは、僕の胸を執拗に舐め回しては『甘い、うまい、うまい』とひとり言を言っている男の身体が阻んで、できなかった。
「気持ち悪い…――そう思っていました。…初めて体を誰かに舐められて、気持ち良く感じるどころか、本当に、気持ち悪いと思って…それに僕はきっと、ケグリ氏に介抱されているうち、何 か を知らぬ間に飲まされていた。やけに意識が朦朧としていて、体にもあまりうまく力が入らなかったし、手首もベットヘッドに縛り付けられていて…」
僕はひたすら『やめて、やめて』と、啜り泣きながら繰り返した。…『ぁ、…やっ痛い、…』僕の膣にぬっと入り込んできた男の太い指には、ささくれでもあったのか、チクンと僕のソコを痛ませた。…しかし男…ズテジ氏はなにを勘違いしたのか、『マジでオメガの処女じゃん』と嬉しそうに言うと、――もっと奥へ、その指を推し進めてきた。…そうしてナカを押し広げるようにぬぷぷ…と挿れられたその太い指でさえ、僕の膣にとっては初 め て 入ったものだったからか、酷い異物感だった。
正直言うと、僕はナカで自慰をしたことがなかったのだ。…一度興味があって浅いところへ指を挿れてみたことはあったが、あまりそうやって自分で遊んだ結果、広がってしまったら…それが将 来 の 相 手 の目に映った瞬間を思うと、自然と“やっぱりやめておこう”と思えたからだ。
『遊んでそうないやらしい顔してんのに処女かよ。いや、オメガのくせにデカい図体してるから、誰にも相手してもらえなかったんだろ。お前可愛くねえし、すっげえブスだもんな』
「…その、ズテジ氏は僕のことをブスだと言いながら、僕のナカを無理やりぐちゃぐちゃ掻き回してきて…あ、まあ普通のオメガ男性に比べたら、たしかに僕って本当、可愛げのない顔をしてますし、本当に図体は大きいんですよ。…はは…確かに…普通のオメガ男性に比べたら、たしかに僕って、ブスですからね……」
少年のような…人によってはまるで女の子のような風貌をしている普遍的なオメガ男性に比べ、僕の顔はうりざね顔で目も鋭い切れ長――可愛い、という要素はない。
おもにこのズテジ氏からブスと言われることにもすっかり慣れている僕は、あまり卑屈なつもりもなくこう言ってしまった。
「…………」
ソンジュさんは否定も肯定もせず、黙って聞いていた。
「……ただそのとき、ズテジ氏の声を聞いて気が付いたんです。僕のことを犯そうとしている人が、ケグリ氏ではないことに。ですから僕は、朦朧とした意識の中で“あなたは誰?”と聞きました。」
僕は失意と絶望に増すぼんやりとした意識のなかでも、気が付いた。
今僕を犯そうとしているこの男は――ケグリ氏ではない、と。――明らかにケグリ氏より若い男の声、口調にしてもそのようで、ただ…この部屋には一条の光すら入ってこないばかりに、暗闇の中でもぞもぞと熊のように動く、大きな男の影ばかりしか僕には見えていなかった。
するとズテジ氏は『そんなことどうでもいいだろ。てかやっと起きたのかよ、犯されかけてて呑気に寝てるくらいだから、やっぱもうちんぽ挿れたことあんだろ?』なんて、
『いっ…ぁ、…っや…! いっ痛い、やめて痛い!』
僕をせせら笑ったズテジ氏はいっぺんにもう一本の指をぐぷっと無理やり、僕の乾いた膣に挿入し…そしてナカをぐちゃぐちゃに、乱暴に掻き回してきた。――男の指にあるささくれが、敏感な粘膜をチクチクと針で刺してくるようであったし、何よりまだ狭いソコに太い指を二本、それだけでも本当に痛かった。
濡れてもいないソコは引き攣れ、その上で乱暴に掻き回され、ナカを爪で引っ掻かれて、入り口も、ナカも、奥も、どこもかしこも本当に痛かった。
――覚悟をしてきた。…わかってきた。――でも、いざ本当に“奪われる”状況になってみると、いっそ死んでしまいたいような絶望感に襲われた。
『痛いからやめてくれ、お願い、お願いだ、お願いします、…っ本当に初めてなんです、…お願い、お願いっせめて優しく…』
そう懇願した僕をにズテジ氏は面倒だと思ったのか、『…チッ…うるせえんだよ、黙ってろ。』と、僕の片頬を思いっきり平手打ちした。…ズテジ氏はそれで指を引き抜いてくれたが、横に逸れた僕の頭を、上からグッと力強く抑え付けてきた。
「…抵抗したらビンタされて、頭を押さえ付けられたんです。――それで、僕はこれ以上痛い思いをしたくないと抵抗をやめて、ズテジ氏がなにか怒鳴っている言葉も聞き取れないまま、また意識を手放してしまいました。本当、確かに、呑気ですね。……」
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