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【3】神の目は見ている ※モブユン

 ※全体的にユンファ(受け)が悲惨な目にあっています。悲惨な感じのモブユン要素が「※」をつけられないくらい全体的にあるお話のため、ご気分が悪くなられる等が起こった場合は読むのを中止し、ご自身の心身をいたわられますように、どうぞよろしくお願い申し上げます。※    ×××               ソンジュさんは、椅子に座ったままで泣いていた僕をなだめるよう、抱き締めてくれた。――正直、僕は途中まで自分の過去を語っているような感覚はなかったが、それこそ他の誰かの記憶を淡々と話しているような感覚であった…というのに僕は、気が付いたら涙をこぼし、込み上げてくる吐き気にえずいて、全身をガタガタ震わせていた、…らしい。らしい、とはいやに他人事だが。  ただ本当に、我ながら自覚もなく、いや、自覚がないなんて変だとは思うが、…とにかく、いつの間にか僕は、過去の話をしているうちに、感情が昂ぶってしまっていたらしいのだ。    つまり、僕は別に平気なつもりだった、というだけのことだったらしい。――正直自分が自覚しているより、僕はこの一年半で思ったよりも深く傷付いており、僕が思っていたよりも過去の記憶が、強いトラウマになっているらしいのだ。    そして、そんな僕のそばまで来てくれたソンジュさんは、僕のことを優しく抱き締めてくださった。   “「――私と一緒に、家に帰りましょう、ユンファさん…」”    と…も、言われたが。  彼、このカフェ『KAWA's』から、まあ…ある意味では僕を、ご自分の家にさらおうとしていた、というか。――しかし僕は、もちろん駄目だと首を横に振った。    僕は何がなんでも、借金を返済するまでは此処で働かなければならない。――僕の両親のために、僕はたとえどれほど酷いことをされたとしても、此処からは逃げないと決めているのだ。    ケグリ氏は、僕の父の借金を肩代わりする代わり、僕に自分が経営しているカフェ『KAWA's』で働くことを要求してきた。――しかしそれは、蓋を開けてみればこういうことであった。    ケグリ氏はあのとき、僕にこう迫ってきた。  自分と結婚をするか――“性奴隷契約”を交わし、自分の性奴隷となるか。    そして僕は、ケグリ氏の性奴隷となることを選んだ。    ところで今更なのだが、ケグリ氏はもしかすると――僕が小さなころからもうすでに、僕に目をつけていたのかもしれない、と僕は思っているのだ。    僕の疑念はこうだ。  僕はあのとき、動転していてそこに気が付けなかったが、なぜケグリ氏はあのとき――僕の父の借金の額を、知っていたのだろうか。…というかそもそも、本当に父の借金は一千万(以上)あったのだろうか?  いや、逆にもっと多かったのかもしれない――昔からある一つの会社が倒産しているのだ、その可能性はある――が、あの日に突然やってきたケグリ氏が、その借金の額を知っているわけがないだろう。    ケグリ氏は、なぜそれを知っていたのか。  何か作為的なものを感じるのは、僕だけなんだろうか。    ただ…それでも一つ確かなことは、ケグリ氏は確かに僕の両親を救ってくださったということだ。――もうずいぶん連絡を取ってはいないが、…あの契約を交わしてから始めのほうは、僕は自分の両親と連絡を取っていた。  そして彼らは確かに、ケグリ氏が借金を丸ごと肩代わりしてくださり、また、自分たちの生活費も毎月きちんと振り込まれている、と。    それこそケグリ氏は、僕が小さなころから…()()()()()()()のかもしれない。そう思うと正直おぞましく思うが、しかし――事実、僕らはその人に助けられた面がある。    だから僕は、とにかく()()()()()()と考えているのだ。  もちろんケグリ氏と結婚なんかしたくはない。…ましてや性奴隷として扱われることに、僕が追い詰められているところがあるのも、また事実だ。――しかし、それでも助けられたのだから、その恩だけは返すべきだ。      僕にとっては何よりも大切な両親を、ケグリ氏は確かに救ってくださったのだから。         

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