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僕たち家族には、血の繋がりはない。
ましてや僕は、オメガだ。
そんな僕を、たくさんの愛をもって育て上げてくれた僕の両親は僕にとって、たとえ血の繋がりがなかったとしても、何よりも大切で、何よりもかけがえのない本 当 の 家 族 なのだ。
世間的に見れば、正直オメガ属は鼻つまみ者だ。
僕の両親はどちらもベータだが――そんなオメガ属の僕を、ましてや血の繋がりもない、いってしまえば赤の他人も同然の僕を、彼らは自分たちの本当の子供のように育ててくれた。
オメガは世間で、しばしば“わいせつな種族”と捉えられている。…生殖にばかり特化した体――オメガ属として生まれた者は、ただオメガという属性であるだけで好奇と、偏見の目に晒されてしまうのが常なのである。
しかしそんな僕を、自分たちがベータであるにも関わらず、僕の両親は愛情を持って育ててくださり、――此処で働くとなってから中途退学してしまったが――オメガ属である僕を、大学院にまで行かせてくださった。
世間的には、オメガは行けて高校までだ。――それは何も、オメガ属が生まれる家庭がすべて貧困に喘いでいるということではない。…それは、そもそもオメガに大学までの学歴は必 要 な い とされてしまうからである。
もっと言って、僕らオメガ属はただそうであるというだけで、さまざまな事情から、ま と も な 職 業 に限りなく就きにくいからなのだ。
それでも、僕は自分がオメガだからといって諦めなかった。
我ながら成績も良かった。――だからこそ僕の両親は、僕の未来を信じて大学に、大学院にまで行かせてくださったのだ。
オメガ属で生まれた僕の明るい未来を信じ、僕の幸せを誰よりも願ってくれた――彼らこそ僕の、本 当 の 両 親 だ。
そんな大切な僕の両親を助けられるというのならば、僕はたとえ、自分がどうなろうともはや構わない。
もう会えないだろうが…――これが、最初で最後の親孝行になってしまうとは思うのだが。
それでも僕は、僕の両親の幸せを心から願っている。
毎日寝る前に、僕は彼らの幸せを祈っている。――僕がもう救 わ れ な い ことは、最近じゃ痛いほどわかっている。
ですから、僕を救わなくても構いません。
それでも、どうか僕の両親のことだけはお救いください。…彼らの幸せを願っています。――どうか彼らに、多くのお恵みがありますように。
大丈夫だって言ったろ。僕は、これからもどこかで元気にやってゆくから。
…こうなってみて、自分がどれほど甘ったれだったか、よくわかったんだ。――それでも元気に、僕は一人でなんとか、生きてみるよ。
だから…心配しないでくれよ、父さん、母さん。
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