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いや、不老長寿…らしい、とはいったが、実は――事実そのようなのだ。
今“運命のつがい”として認められているカップルは、世界全体で三十組…くらいだったか。そして、たしかにその人らの、肉体の時は止まっているのだ。――また、それは“運命のつがい”となった時点でのものであり、十代で止まっている人もいれば、四十代ほどで止まっている人もいる。
ちなみに三十組とは、わりと多いように思うかもしれないが、今や世界人口が八十億人を超えており、またその内訳はアルファ属が2パーセント、オメガ属は1パーセント。あとの97パーセントはベータ属である、と考えてみると…――アルファ属は世界で約一億六千万人、オメガ属は、約八千万人ほどいる計算になる。
それらを踏まえると、三十組という“運命のつがい”の数は、やはりかなり、かなり少ないのだ。
まあ一応、遺伝子的な相性の話ではあるために、DNA検査を受けることでもわかるそうだが…――だとしてもそもそも、まず出会えないものである。
その実“百パーセントの相性”の相手がゴロゴロ存在しているわけでもなし、何より、アルファ属とオメガ属の絶対数自体がベータ属に比べればかなり少ない。――僕だって自分自身が、マイノリティサイドのオメガ属として生まれてはいるが、…僕は、この店で働き始める前までは同じオメガ属に会ったことすらなかったし(『AWAit』に連れて来られたオメガ性奴隷が、初めて会った同属だ)、またアルファ属に出会ったのも本当に、僕はソンジュさんが初めてなのである。
そもそもこの世の中に必ず存在している、という相手でもないために、“運命のつがい”なんて今となってはほとんど伝 説 のようになっているものなのだ。
いわくひ と 目 見 た だ け で “運命のつがい”がお互いにわかる(お互いに一目惚れする)、お互いの体臭が他の者のそれよりも好みで、かなり良い匂いに感じる、本能的に強く惹かれ合う、だとかなんとか言われているが――そもそもとして、オメガ属のほうはアルファ属と目が合っただけで本能的に危機感を覚えるところもあり(そりゃあ仮に無理やり“つがい”にされてしまえばあとがないのはオメガであるから)、その感覚が、“運命のつがい”にだけ緩和されるというのは考えにくいことだ。
だいたい、一目惚れというのは容姿が好みであっただけでするものなのだろう。…するとその点で言ってしまえば、美形しか生まれないというアルファ属に、怖いながらも一目惚れするオメガ属なんて――正直、いくらでもいるに決まっているじゃないか。
ましてやオメガは、狼化したアルファにはもっと危機感を覚えるというし、そもそもなのだが、肉体的な運命の相性に、必ずしも純粋な恋心は伴うものなのだろうか?
正直、僕個人としてはかなり信じられないというか――まあ少なくとも、僕がその“運命のつがい”とやらに出会うことはないだろう。…そんなことあったら、まさに奇跡である。
それこそ世の中でも、あまりにも希少な運命の関係性であるために真偽がどうこうというより、このヤマトじゃ運命の人のことを、“運命のつがい”とフランクに表現している人のほうが多い――もちろん“つがい”という関係性であるため、本来はアルファ属とオメガ属にのみ適用されるものではあるが、もはや属性関係なくだ――。
たとえるなら世の人の認識は、「今の彼女は絶対、エイレン様に導かれて出会った、俺の“運命のつがい”なんだよ、だって相性めちゃくちゃいいもんな」というくらいの感じで、もはやわりとみんな気軽に(自分の恋人が)“運命のつがい”なんだ、なんて口にしているほど、もはや伝説というか、なんというか(ちなみに、そう言っているカップルほどすぐに別れることが多い)。
「…“運命のつがい”には、一目惚れするといいますよね」
「ええ、そうらしいですね…」
僕は今、またうつむいているが。
やっぱりソンジュさんはロマンチストなんだなぁと、わりに冷めた気持ちである。
「…一目惚れ、しました?」
「…いえ…残念ながら僕は、“運命のつがい”に会ったことなんか、ありませんので……」
「…あぁ…、そうですか。ふふふ…」
「………、…?」
なんだよ――その意味ありげな笑いは。
まさかとは思うが、また僕を口説こうとでもしているのだろうか?
私たち、実は“運命のつがい”なんですよ、なんて。…でも、もしそんな確証のない口説き文句を言われたら、さすがのソンジュさんでもちょっとキザだとしか思えないな。
根拠を示してもらわないと納得できない。――僕はそもそも、実は結構そういう感じの性格の人なのである。
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