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そもそも僕は、たしかに見た目で判断されて、しばしばアルファ男性だと勘違いされる。――しかし、オメガ男性として生まれた僕自身が、“本当は僕、他の種族(アルファ属)なんじゃないか”なんてとんでもない勘違いしたことなんか、正直一度だってないのだ。
なぜなら、僕らオメガ属は月に一度――個人差はあるが――約一週間もの間、男女関係なく、“オメガ排卵期”が訪れてしまうからだ。
そしてもちろん、僕もそれは毎月来ている。――そうでもなければ、『AWAit』であんなパーティーをやらされるはずもない。
“オメガ排卵期”――だいたいのオメガが、およそ十五歳ほどで初めて迎えるそれは、アルファやベータの女性が毎月卵巣で卵子を育てて排卵する、排卵期に似ているといえば似ているかもしれない(ちなみに彼女たちの排卵期は、そのまま“排卵期”と呼ばれている)。
ただ、その種族の女性たちは排卵後、卵子が受精しなかった場合は子宮内膜が剥がれおち、そうして月経が訪れる。…が――オメガ属には男女ともに、その月経はない。
オメガ属は、そのオメガ排卵期の前期間に、(個人差はあるが)約七個ほど卵子を卵巣で育てる。――そしてオメガ排卵期が来ると、それを一日ごとに、一つずつ排卵してゆくのだ。
よってそのオメガ排卵期の期間は、一週間程度続くことが多い。…なおそれの期間は、卵巣に作り溜められた卵子の数に左右される。――つまりそのため、一週間より短いことも、あるいは長いこともあるのだ。
また、より強い子供を生むためか、オメガ排卵期中のオメガの子宮には“卵子をじわじわと殺す成分”が常に分泌されており――それは、生まれたての殻の厚い卵子には影響がないものの、初日に排出された卵子は四日目辺りになると、その分泌液の影響で脆くなり、自然と殻が破れて死んでしまう。……ちなみにその死んだ卵子は、オメガの子宮内で吸収されて終わりだ。
そして僕らオメガが、“妊娠するべき種族”とされるゆえん――オメガ排卵期中のオメガは、膣内射精をされるとほとんど百パーセントの確率で、妊娠してしまうのだ。
しかも、オメガ排卵期が終わったあと約四日間はまだ卵子が生きていること、また、完全に子宮内の卵子が死んでいるかどうかというのは体調に反映されない――体調面での諸症状が収まっていたとしても、卵子がまだ生きている可能性がある――ということもあって、“終わったから”とうかつに膣内射精によるセックスをしてしまうと、オメガ排卵期後であっても妊娠する可能性がある。
そのほか、オメガ排卵期の前に受け入れた精子がまだ生きていた場合、たとえその期間中にセックスをしなかったとしても、妊娠してしまうことがある。
ちなみにオメガ排卵期の終わりは――その卵子のどれかが受精するか、卵巣にある卵子がすべて排出された時点で、終わる。
また――その期間中、僕らオメガ属の体は、ど う し て も 妊 娠 し た が っ て い る …としかいえない。
諸症状のピークは二日目、三日目だ。――オメガ排卵期中のオメガ属の体は、いうなれば常にムラムラしている。
微熱――常に体中が火照り、判断能力も下がっている。
常に目は潤み、体中ほの赤くなって、だるくて動きも鈍くなってしまうし、やけに多幸感が増してぼーっとし、複雑なことを考えにくくなる(ふわふわと幸せだからどうでもいいか、という思考になりがちだ)。――また期間中は、常にいちじるしく上がった性欲のやり場に困っているし、体中どこもかしこも敏感になっている。
そして、オメガ排卵期中のオメガの膣内は常に、大量に愛液を分泌してしまうため、専用のナプキンをあてなければ下着がベトベトになってしまう――なお、他種族の経血用ではなく、愛液を吸収できる素材のものだ――。
また、常にきゅうきゅうと物 足 り な さ に子宮や膣壁が収縮して、ナカのヒダもうねうねとうごめき続けている…――残念な事実がある。
その実、オメガ排卵期中のオメガ属はたしかに、頭が馬鹿になっているのだ。
膣内に男性器を挿れられること、めちゃくちゃにナカをこすられ、奥を突かれること――およそ、それで頭がいっぱいになってしまう。…しかも、そうした望みどおり男性器を挿れられると、…いつもより感度が上がっている膣内はすぐに何度もオーガズムを迎え、体中がわなないて喜び、…たとえ無理やり犯されていたとしても、――あまりにも、大きな幸福感を覚えてしまうのだ。
しかも…曰く、オメガ排卵期中のオメガ属の膣内は、最早挿入しただけで極 楽 に 行 け る と言われるほど、普段よりも更に男性器へと快感をもたらすものになっているというのだ。――熱く、普段より粘度の高い愛液をたっぷりと分泌したオメガ属の膣内は、まるで別の生き物のように男性器に媚びる。…絡みつき、纏わりつき、舐め回し、締め付け、吸い付き、吸い上げ――奥に来て、もっと奥に…と、波打って。
また、オメガ排卵期中の僕らオメガ属のナカに、射精すると――それを膣で感じ取り、搾り取るのだという。
射精している男性器を、僕らオメガ属の体は察して、自然とナカを締める。――“子宮門”は男性器の先端にちゅうっと吸い付き、カリ首にしがみついて離さないで、子宮口と尿道口の位置をピッタリと合わせ、…まるで唇で吸い付くよう、子宮口は、尿道口にちゅっと吸い付いている。
そうして逃げられないようにしながら、膣壁にある無数のヒダを幹へと絡み付かせ――男性器全体を奥へ吸い上げながら、肉壁を奥へ奥へと波打たせ。
そうして男性器の尿道を揉み、発射されている精液を、一滴残さず搾り取ろうとするのだ――。
人は、このオメガ排卵期中の、オメガ特有の膣内運動を――“精液をナカでゴクゴク飲んでいるようだ”と言ったりもする。
僕はいつも思っている。
どうして僕らオメガ属には、こんなオメガ排卵期なんてものがあるのだろうか。――これではまるで、僕らオメガ属の存在意義は、誰かの子供を生むだけのようだ。
とはいえ…そもそも、そうしてオメガ属がオメガ排卵期を迎えていたとしても別に、僕らは完全に理性を失ってしまうわけではない。
だからといって誰彼構わずの性行為を求めているわけではなく、意図的に他の種族を誘っているわけでもない。
ムラムラしていたり、風邪のひき始めのような症状はあるが、それでも耐えれば日常生活を送ることができる。
オメガ排卵期は正直、たしかに発情している状態とはいえてしまうが――そのため以前は発情期やヒートと呼ばれていたが、その表現は差別的として“オメガ排卵期”という呼称に変わった――、それも自然な生理現象として起こっていることであり、僕らオメガ属の人格がそもそも淫蕩なわけでもなく、また、僕らの意思でいやらしい気持ちになっているわけでもない。
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