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               ――とはいえ、だ。  有り難いことに現代では、オメガ排卵期の症状を和らげる“抑制薬”が存在している。    僕は正直、此処に来てからというもの、抑制剤を飲むことは禁止されているが――『AWAit』のイベント、“乱交パーティー”のためだ――、しかし。  この抑制薬を飲むと、オメガ排卵期中の諸症状を抑える効果があるほか、フェロモンの香りを限りなく抑えることができる。――それこそ抑制剤があれば、そうムラムラもしない。…子宮や膣の蠕動もやむし、微熱も下がり、頭がぼーっとするのもある程度抑えられる。  抑制剤さえ飲めば、ほとんど僕らはいつも通りの状態だ。――ただ、やはり排卵はしているため、別途“避妊薬”が必要にはなってくる。    オメガ属専用の“避妊薬”がある。――この避妊薬は、オメガ属の子宮が分泌している“卵子をじわじわ殺す成分”の濃度を濃くし、強制的に卵子および受精卵を殺すものだ。  この避妊薬は、事前に飲むことによっても避妊効果を得られるし、また事後に飲んでも避妊効果がある。――もちろん、オメガ排卵期の期間中に飲んでも効果を発揮してくれるため、オメガとして生まれた人のほとんどは()()()に備えて、みんな常備している薬と言っても過言ではないことだろう。    ただし、たとえその卵子を避妊薬で殺したとしても、オメガの体は約一週間もの間、次々卵子を排卵してしまうシステムだ。――そのため、避妊薬で始めに排出した卵子が死んだ(子宮内で吸収された)としても、また次の日には排卵してしまうため、その次の日にも、つまりオメガ排卵期の期間中は毎日、その避妊薬を飲まなければならないのだ。    ――また、この薬は()()()()()()()()だ。  オメガ排卵期には、たとえばアルファ、ベータ女性の月経をコントロールをする、“ピル”のような薬はない。  というよりは残念ながら――オメガ排卵期専用のピルにあたる薬は、承認されなかったのだ。    他種族女性のピル(中用量ピル)は、薬の効果で妊娠中同等の状態になることによって排卵、および月経が訪れなくなる――あるいはそれによって、月経をコントロールできる――ものだそうだが、技術的には、オメガ属にもその状態を作り出すことは可能であったものの、臨床段階で重い副作用が見られ、実用化は見送られたそうである。    というのも…オメガ属は妊娠中、子宮膜をどんどん厚くして補強するのだが――逆にいえば、そのピルを服用し続けてしまうと、どんどん子宮が肥大化していってしまう。  それはもちろん、本当の妊娠であれば、出産後に分泌されるホルモンのおかげで、出産後にじわじわとそれが剥がれて、またもとの薄さに戻ってゆくものなんだそうだ(他種族の女性の月経のように)。――が…しかし、ピルは擬似的な妊娠状態であるために、そうはならない。    また、いわゆる低用量ピル――他種族女性でいえば、月経を早める(つまりオメガ排卵期を早め、コントロールする)――ピルにおいても、卵巣で作り出す卵子の数がかなり多くなってしまうという副作用があったために、オメガ属専用のピルは、どれも実用化を見送られたのだ。      そのため、僕らオメガ属は毎月、約一週間は必ず、大なり小なりオメガ排卵期に耐えなければならないのである。     

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