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【5】ぼくはぼくの目をふさぎたい ※モブユン
「――どうですか、ユンファさん…? 私たち、どうやら“運命のつがい”らしいのです。」
そうニヤニヤとして僕を見つめてくるソンジュさんの、その水色の瞳は、まるでいたずらを仕掛けてくる少年のように、なかばは純粋にワクワクと輝いているが、もうなかばは大人の思惑に光っているような、どこか妖しい感じだ。
「……どう…と、言われ、ましても……」
信じられるか?
普通に、今しがたまで“運命のつがい”なんて、それこそファンタジーだと思っていたような僕が。――端的にいえば『お二人は“運命のつがい”でした! おめでとう!』みたいな証 明 書 を突き付けられて、「どう? ねえねえどう? どうどう?」みたいに、今日会ったばかりの紳士に聞かれている。――なんだ、この状況は(まあ今更といえば今更か、大げさにいえば今日はな ん だ こ の 状 況 、ということしか起きていない)。
「……、……、…」
いや、いや、――いやいやいや。
でも待て、待て待て待て、よく考えたらおかしい。――この証明書では、僕の検体(DNAを調べるために取った皮膚など)が『検体:うなじ』となっている。…そりゃあオメガ属のうなじは、一番DNA情報が詰まっていると言われている部位であるから、こういう鑑定をするならばそこだろうとは理解もできるが。
でも、僕は間違いなくこのソンジュさんとは初対面だ。
うなじだぞ。
うなじを何 か し ら で擦られたってことは、確実にそれらしいことをされている記憶が、僕に残っていなきゃおかしい。…ましてや僕のうなじは、そう簡単には触れないはずだ。
赤い革の首輪、それも、僕個人の意思では外せない南京錠付きのそれがあるからだ。そしてこの首輪の上にややかかる、長めのえり足もあるからだ。
その実僕は、――このケグリ氏につけられた首輪はともかく――性奴隷になってから、あえて髪を長めに伸ばし、うなじを髪で隠している。
というのも、それこそ本当の意味でア ル フ ァ の 真 似 事 をしてきたケグリ氏に、セックス中いきなり、いたずらでうなじを噛まれたとき――僕は思わずカッとなって、手(というか肘)が出てしまったのだ。…ふざけんじゃねぇ、と。
もちろんかなり怒られた、お仕置きもされたが――そりゃあ僕はこんな 見た目だが、それでも本当にオメガ属なのだ。…いくら相手が、僕のことを“つがい”にはできないベータだとしても、もはやそんなことは何も関係ない。
オメガ属がうなじを噛まれるだとか、もはや勝手に触られるだけでも本能的な警戒心をいだき、攻撃的にもなってしまうのは当然のことじゃないか。
ただ、だからといっても性奴隷の僕がそうケグリ氏に牙を剥くというのは、何よりも自分のためにならない。…そうそうお仕置きなんかされていたらたまったものじゃないと考えて、僕はあえて髪でうなじを隠し、守っているのである。
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