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「………、…」
いや…正直、似てるような気がする。
“カナイ”さん…――その人は、高級オメガ専門風俗店『DONKEY』で、僕を指名したお客様である。…それも、僕の勤務時間である零時から朝五時まで、フルで買ってくれた。
カナイさんははじめ、その顔をすべて覆う仮面を着けていた。――その仮面はイメージとして、さながら仮面舞踏会に出てくるようなものだった。…白地に、青い隈取りと金色のライン、作り物の唇は青く塗られ…かろうじて見えていたのは、仮面の奥に潜んだその人の水色の瞳と、横から見えたホワイトブロンドの髪であった。
ただ、仮面に関しては特に珍しいことでもない。
その人がそうした仮面を着けていたからといっても別に、だからこそ特別僕の印象に残っている、というわけではないのだ。
というのも『DONKEY』や『AWAit』は、素性を隠すために仮面を着けてやって来るお客様がままいるのだ。
それこそ『DONKEY』はあれでも高級店に位置しているため、それも時たまではあるのだが、お客様の素顔を見られない状態(仮面を着けた状態)で、接客をすることはしばしばあることだ。――また『AWAit』に関しても、会員制ともなればそのようであり、…いやむしろ、『AWAit』に関してはほとんどのお客様が仮面を被って店に訪れる。
それこそ『AWAit』自体でも、仮面を貸し出ししているくらいなのだ。
しかし、そう思えばソンジュさんはたしかに、背格好にしろなんにしろ、カナイさんによく似ている。
でもカナイさんってたしか、タトゥースタジオの社長さんで、まさかそれが嘘というわけが…――というのも『DONKEY』は、身分証明書が必須であり、お客様の正確な素性は、店側が把握している。…というよりは、『DONKEY』が高級風俗店であること、プレイ内容がわりと自由が利くうえでデリバリーヘルスであることから――しばしばキャストには明かされないにしても――、そういった情報は確かなものでないと、まず店を利用できないようになっているのだ。
では、なぜ僕がそれを知っているのか、というと。
カナイさんは上半身を見られたくない、という注文をしていた。――というのも彼は、タトゥースタジオの会社を経営しており、その上半身にタトゥーがびっしり彫られているために、キャストである僕を怖がらせてはいけないから、という配慮をしてくださったので、その旨をスタッフから聞かされた(それはキャストの僕に伝えても構わない情報として扱われていた)。
また、カナイさんは身分証明書の名前――本名――の下の名前だけを、僕にも事前に明かしていたのだ。
“カナイ”――三十代アルファ男性、タトゥースタジオの会社を経営する、敏腕社長。だと。
「…………」
正直、わからない。
ただ、ソンジュさんがもし、本当にカナイさんであったらたしかに…――それこそはじめからこうするつもりで、なにか、とにかく凄い方法で素性を偽って、カナイさんとしてあの、『DONKEY』にやって来ていたとしたら。
僕のうなじから検体を取るタイミングは、正直いくらでもあったことだろう。
なぜなら僕は、朝五時に自分でかけたアラームが鳴り響くまで――彼の腕の中で、安心して眠っていたからだ。
いや、朝目が覚めたらカナイさんはいなくなっていたが、僕が眠っている間に――僕が知らない間に――検体を取ることは、できたことだろう。
もしかして――あの置き手紙にあった『また必ずお会いしましょう』は…、僕が眠りに落ちる瞬間、気のせいかと、夢を見ていただけだろうと思っていたが、…カナイさんが言った、あのセリフは。
“「必ずお迎えにあがります。…必ず、またお会いしましょう、ユンファさん…――。」”
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