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                「…いやっ何を勝手に、――このユンファは、私と()()をしているんだ。…まあたしかに、この店で働く期間は、借金の残額分と決めていますがね。」    ケグリ氏はいよいよ声を荒げて、自分よりもうんと背の高いソンジュさんを睨み付けている。――しかしソンジュさんは威風堂々として、人差し指と親指でつまんだタバコを吸って、とても澄ました様子だ。…サングラスをかけ直した上、その黒茶のグラスの下でまた目を閉ざしているからかもしれない。  ケグリ氏は怒ったような強い調子で続ける。   「…ただし、()()()()()には、私の性奴隷である期間はそういうふうに設けてないんですわ、――少なくとも()()()()()()()()()なんだ、このユンファは!」   「……、…」    ソンジュさんを睨み上げながら、ビッとケグリ氏の太った人差し指が僕を指差す。――するとソンジュさんは、ふーっとケグリ氏の顔にタバコの煙を吐きかけると。 「……ええ。――ですから()()()()()()、一週間ほどユンファさんをお借りできるかどうか、というのを私は、彼のご主人様である貴方にお伺いしているのです。…」   「…ふグ…っならば、断固としてお断りしますよ。」    タバコの煙が目に染みたのか、はたまたシンプルに不愉快であったのかはわからないが、ケグリ氏はしかめた顔を軽くそむけながらもそう言い、その流れで僕に振り返ると、僕のことを脅すように睨み付けてくる。   「おい、いいのかねユンファ…、此処でお前が働かないなら、お前の父さんたちは生活するにも困るんだぞ? わかってるな、私はお前が働きもせんなら、生活費など一銭たりとも…」    ケグリ氏の言葉の最中、ふっと鼻で笑ったソンジュさんは妖艶な笑みを、その口元に浮かべる。   「…ククク…その件に関しましてはご心配なく。私が、ユンファさんのご両親の生活費をお出しするということで、もう話がついておりますので。」   「…グッ…勝手にコイツと話を進めんでもらいたい。ユンファがどう言おうが、生憎コレの所有者である私はまだ許可してないんですよ。」    ケグリ氏はまたソンジュさんを睨み上げる。  しかし一方のソンジュさんは、サングラスの上の濃茶の美しい眉をしたり、ひょいと上げて。   「……おやおや…それこそよいのですか。それは私が思うに、大変賢くない選択だ。――貴方はなぜ私に、ユンファさんが()()()()()()()()()()()()()()()()()()のですか…? ケグリさんは、もうその()()をお忘れのようだ。ははは…」   「……っ」    悔しそうな顔をしたケグリ氏に、ソンジュさんはなにかやけに艶っぽい…優しげな、やわらかい声で続ける。   「…呆れますね、ケグリさん。…貴方、私の父に()()()()()()()()()のでしょう…? 曲がりなりにも()()()()()()()()()()()が、()()()()()()()()を、ね…――いやぁ…このことが私の父の耳に入ったら、…ふっ…ククク…いったい、貴方はどうなってしまうのでしょうか……」     「……、…」    と…いうことは、本当にケグリ氏って――()()()()()()()()()()()()()()()()()のか。…ただ、曲がりなりにも、だそうだが。――ケグリ氏はよく「私は十条家の生まれだ」というのを鼻にかけ、そうではない僕を酷く見下していた。…正直、僕はそれが事実なのかどうかを疑っていたが、どうやらそれは、本当のことであったらしい。    僕はぼんやりとそう考えていたが、ソンジュさんはニヤリとしたままで、またケグリ氏の顔面へふーっとタバコの紫煙を吐きかけ――やけに演技がかった、柔らかな声で。   「……しかも…あまつさえ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()を、…ねえ。はは…ねえ、ケグリさん。()()()()()()()()()を、ご自分の性奴隷になさっていたのですから、貴方はね…いえ。私はこれでも、ケグリさんの身を心配しているのですよ…?」   「…グ…ッ」   「……、…――?」      え…――?  な、なに、今、ソンジュさん…――なんて言った?      僕の耳が、おかしくなったのか?      ソンジュさん今、まさか僕が――アルファの元王族家系――しかもヲクの分家ではない、本家の、()()()()()()()()()()()、と言った…のか?           

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