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                     あからさまな冷笑を浮かべたその朱色の唇は、恐ろしいほどに端正に、つやつやとしている。   「…上の階にいる()鹿()()()()()も呼んで、三匹揃って土下座しろよ…」   「…、…っそれは…、…」    ケグリ氏は険しい目付きで、背の高いソンジュさんを見上げている。――ただその反面、脂汗をかいているケグリ氏は、どこか今にも折れそうに、その薄眉が弱気に陰っている。  しかし、もっともソンジュさんは、それを知ってか知らずか、余裕たっぷりに強く出る。   「…なんだ…? 聞くにずいぶん十条の名を誇っていたわり、九条ヲクの俺には楯突くのですか…――しかし、曲がりなりに貴方も十条の者なら、もうわかっていらっしゃるはずだ…。十条家は、九条ヲク家に逆らう権利など、ありません。ふっ…十条は、()()()()()()()()のだからね。…」   「……、……」    取り澄ましたソンジュさんの、冷ややかな低い声――黙り込むケグリ氏の、その太った手が彼の太ももの側で怯えたように震えている。   「…これでやっと、()()()()()()がおわかりになりましたでしょう、ケグリ。…ほら、馬鹿息子どもを早く呼んでこいよ…――。」             ×××         「…………」    驚いたことに――ケグリ氏は、上の階からモウラとズテジ氏をこの場に呼び付けた。  何が起こっているのやらわかっていない二人、モウラは勤務中であったために、水色と白のチェックシャツの上から青いエプロンを着けたままであるし、ズテジ氏に至っては、ボサボサの頭、部屋着の女の子が描かれたTシャツと半パンのままに、この場へと妙な顔をしてやって来た。    また、ソンジュさんは立ったままで僕に手を差し伸べ、「ユンファさんはこちらに」と、椅子に座っていたままの僕に起立するよう言った。――正直僕も何が何やらわからないままだったが、どうも彼に逆らっては痛い目に合うような気がしたために、僕はその人の手を取って立ち上がった。    するとソンジュさんは、僕の腰をするりと抱いたあと――その様を三者三様いぶかしく、あるいは怯え、あるいは不愉快そうに見ている三人に、「せっかくですから、あのステージでどうぞ…?」と、…この店のステージを顎でしゃくって示したのだ。    まさか、土下座しろなんて言われているとは知らないモウラとズテジ氏は、「は?」とか「何?」と不機嫌そうな疑問をいくつもソンジュさんにぶつけたのだが。――父であるケグリ氏が黙ってステージに歩いてゆくと、彼らは目を瞠って驚いた。  なにしてんの、どういうことだよ、と各々口にしている二人にケグリ氏は「いいから黙って着いてこい!」と怒鳴り――するとその父の異変に気が付き、渋々ながらもケグリ氏に着いて行った二人は、チラチラと並び立つ僕らを睨んだり、いぶかしく見たりとしつつも、…そうして三人は結局、『AWAit』となったこの店で使用されるステージ――いつも僕が恥ずかしいショーをさせられているステージ――上に、のぼった。           

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