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「…………」
ゆっくり…ふう…と隣の僕に振り返ったソンジュさんは、ほんのりと妖しく微笑んでいる。――僕はその淡い水色の瞳を見て、ゴクリと喉を鳴らした。…うっとりと緩んだ切れ長のまぶたの下、その瞳が強気に光っていたからだ。
ただ、性奴隷としてならばともかく――今はあくまでも彼の恋人(らしい)僕は、…ソンジュさんのその意味ありげな瞳に顔を横に振った。
「…………」
「…………」
するとソンジュさん、その濃茶の凛々しい片眉をひょいとして、――すっと僕のほうへ体を傾け、素早くその端正な顔を僕に寄せてくると、…僕の片耳からこめかみを片手で押さえ、固定し…はむ、と僕の唇を食んできた。
「……ッ」
だ、駄目だ、今は、…と、僕はソンジュさんの胸板を押す。――モグスさんがいるのに、ちゅぷ、なんて水っぽい音が立ったらと思うと、想定しただけでも羞恥に頬が熱くなる。
押すが、…どうしてもうっとりとした気分になってしまって、強く拒めない。――くう、と押している程度では、傾いたソンジュさんの顔、その角度の深い唇に、僕の唇ははむはむされ続けている。
「……、…ッ」
僕はせめて唇を閉ざし、今は駄目です、あとにして、とソンジュさんに示しているつもりなのだ。――が、…僕の上下の唇の間をぬろぬろと彼の生あたたかく濡れた舌先が優しくなぞり、舐めて、…あたかも口を開けといってくる。…僕は困って眉をひそめ、ふるふると小さく顔を横に振った。
「………、…」
「……は、…」
すると、すぅ…と少し離れてくれたソンジュさんに、至近距離かなり熱っぽく見つめられつつも僕は、この距離ならと、かなり小さな声で彼へ。
「…今は駄目です…、前にモグスさんが、バレてしまいま…んぅ、…ッ」
しまった、声が、――いや、多分かなり小さかったはずだが、…話している最中にサッと素早く、ソンジュさんの唇に噛み付かれた。まるで獲物の隙を突いて噛み付いた獣のスピードだった。
いや、多分かなり小さな声だったので、モグスさんには聞こえてない、多分大丈夫だろうが、…なんでこんなリスキーなことをしたいんだ、この人。
「……ッ、…ッ」
「……ふっ…」
今したりと小さく鼻で笑ったソンジュさんは、僕の唇に軽く吸い付きながら、あむ…あむ…と先ほどよりも大きく、僕の唇を弾力のある柔い唇で食んでくる。
やや離れながら顔の角度をゆっくりと変えて、ソンジュさんがまた僕の唇を食もうという瞬間――僕はサッとその隙に、片手の平でその人の口元を覆い、…目を丸くしたソンジュさんに眉を顰めながら、顔を横に振った。
「……、…、…」
駄目っつってんだろ、と僕は、正直なかば苛立ちもある。――もうなかばは困惑だが。
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