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ソンジュさんは――作り物の王子様なのだ。
はじめから作 ら れ た 優 し さ を僕に注いでいたのだから、彼はまさしく空 想 の 中 の 王 子 様 なのである。
正直いうと、僕はソンジュさんにあんなに大切にされ、優しくされて、少しだけ気持ちがやわらいでいた。
本気で好きになりそうだった、きっとそういうわけじゃないが、少なくとも――あの辛い現実から、甘い夢を見られる安息の眠りの中に居るような気分だったのだ。
でも、その夢も今覚めた。
すう…とナイフの切っ先のような、冷ややかな“契約”という現実が、僕の喉元に突き付けられたからだ。
そして、僕はその“契約”に頷くしかない。
ナイフを突き付けられて、脅されているようなものだからだ。――ご主人様に言われているからだ。…もうここまできて、動き出した車の中で、今更嫌ですなんてとても言えないからだ。
「…………」
いや…むしろ、ちょうどよかったのかもしれない。
僕はソンジュさんの子供を妊娠しなければならないし、ちょうど一週間以内にオメガ排卵期も来るだろうし、契約とはいえ恋人関係なら遅かれ早かれ、ソンジュさんは僕を抱いてくださることだろうし…――ちゃんと妊娠できたら、僕はお仕置きされないんだし。…もしかしたら妊娠中だからと、ケグリ氏たちの僕を犯す手も緩まるかもしれないし。――僕にアルファの子供を産ませたいそうだから、お腹にいるのは大事なアルファの子だからと、…妊娠中は多少大切にされるかもしれないし。
「………、…」
また裏切られたんだ…持ってきたあの手紙を、今にもビリビリにして破り捨てたい、…また僕は騙されていたらしいが、けど、でも…少しでも…好きだと思えていた人の子なら、あるいはケグリ氏たちの子供よりは、愛せるかもしれないし…――もう別に、なんでもいいか…。
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