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するとソンジュさんは、「ありがとうございます」と艶めかしい小声で言うと、すう…とゆっくり、上体を起こした。
「………、…」
正直――怖い、と、僕は目を瞑り、そっと眉をひそめる。
残酷なこと…タバコの火を額に押し付けるような人に、僕は今から性奴隷としてめちゃくちゃにされ、いわく残 酷 な こ と をされるらしいのだ。――何をされるのか、…乳首にタバコでも押し付けられたりして、そればかりかあるいは、性器にそういうことをされるかもしれない。
「……、…、…」
低温ロウソクじゃない、普通のロウソクの熱さが思い出されて、僕は唇が震える。――バラ鞭ならまだいいが、…『DONKEY』のお客様に一本鞭を打たれたときは、本当に痛かった。…しばらくミミズ晴れが引かず、さすがのケグリ氏もそれには追々NOを告げていた。
いや、もちろんケグリ氏は僕の体を心配したわけではない。…あんな傷だらけの体じゃ仕事にならないから、だそうだ。――傷に興奮する人もいるが、逆に痛々しすぎて萎える人も少なくはないからと。…そりゃあ体中青あざとミミズ腫れ、赤い擦り傷、青紫のかさぶたがあって、どうして恋人プレイなんかできるのか。
変だが、結構多い――僕に、恋人プレイを求める人は。
ソンジュさんみたいに――なぜか、僕と偽りの愛を囁き合いたがる人は、少なくないのだ。
「……、…、……」
そういえばあのとき…ぬるま湯のシャワーすら、背中の傷に滲みた。――僕の足下に朱色の水が流れ、それが排水口へと吸い込まれていった。…僕はしばらく呆然として立ち竦み、その朱色の水を眺めていた。――僕の心から流れ出た血が、そこに見えたようだった。
不思議と癒やされる光景だった。
全身を伝うぬるま湯のすべてが、僕の体から流れ出てゆく血のような気さえした。――もっと真っ赤に流れてほしい。血が止まってほしくない、とさえ考えていた。…ずっとこの血を見ていたいと、願っていた。
そしてあわよくば――このまま失血死してしまいたいと、ぼんやり思っていた。
後悔すればいい…――ノダガワの奴らがそれで、やり過ぎたと後悔すればいい。
後悔すればいい…僕の体を痛め付け、僕の傷に精液かけて喜んでいたあの男が、犯罪者になればいいのに。
みんな死ねばいいのに。
みんな死ね、死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね。殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる殺してやる殺してやる…――。
死にたい…いっそ誰か僕を殺して…――もう嫌だ、
…助けて…誰か助けて、助けて、お願い、助けて、助けて助けて助けて、助けて、助けて…助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて――。
「……ッ!」
僕は、自分のまぶたの裏に蘇ってきたその映像 にビクッと怯え、ハッと目を開いた。…目が回っていて、よくは何も見えない。
何、されるんだろうか――僕、今から。
「………、…」
僕は、血の気が引くほどの恐怖に、震える唇を引き結んだ。
ソンジュさんが、そんな僕のことをじいっと…――愛おしげに見下ろし、ただ微笑んでいたからだ。
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