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もしかしたら、シャワーを浴びたあとなら…――そういった期待に胸を高鳴らせ、僕は着ていたふわふわのローブを床に落とした。…汗をかいたから、とりあえず着替えて、とソンジュさんから、新しいローブを渡されたのだ。
僕の背後――ベッドの上で脚を組み、タバコを吹かしながらソンジュさんは、僕の裸の背面を眺めて、はぁ…とため息をつく。
「…なんて美しい背中、このお尻…、…美しい…」
「………、…ッ」
ソンジュさんは背後で、おそらくはバニラの甘い香りがするタバコを、ベッドの上に置いた灰皿に押し付けて消したのだろう。――あるいはそこに置いたか。
なぜなら…僕のお尻を、そのあたたかい両手でするり、下から撫でてきたからだ。
むに、と軽く掴まれ、そのままもみもみと優しく揉みしだかれる、僕のお尻。――に、ソンジュさんは何かしみじみと。
「…痩せ型で…しなやかな筋肉があるわりに、ユンファさん――お尻だけ…少し、ふくよかですよね……」
「……、…あ…あの、まあそれは、…正直よく言われます…、エロいデカケツだとか、お尻で、誘ってる…とか……」
もちろん体型の話である。
遺伝的な体型なんて僕にはどうしようもないものであり、誘っているだとか、そんなつもりはさらさらないのだが――どうも僕のお尻は、いや、お尻だけは…オメガ属的に大きめらしく、ウエストに合わせてズボンを選ぶとお尻が入らない、お尻に合わせてズボンを選ぶとウエストがぶかぶか…というような、実は本当に面倒なお尻なのだ。
ただ、もちろんお尻は背面に続いている部分であり、たしかにズボンの問題があるため大きいにはそうなんだろうが、ではどういったお尻なのか、だらしないということなのか、何なのか…正直僕は、あまりその辺りはよくわかっていない。――鏡で見るにしても後ろじゃ上手く見えず、よっぽど他の人のほうが、僕のお尻の全容は把握していることだろう。
「……安産型、とかも…」
「……まあ、たしかにオメガ属はみんな、子宮がある関係上、そのように骨盤が大きく張っていますからね…――それにしても、あのケグリが安産型だとか言ったと思うと…はぁ、グゥゥ゛…っほんと殺したくなる、アイツの粗チンぶった切ってやりたい……」
「…………」
今ぼそりと言ったソンジュさんの「殺したくなる」が、今はどうも冗談に聞こえない。…あんな姿を見てしまったからだろうか。――まあたしかに、ケグリ氏は『ユンファは孕みだかりだからこうした安産型なんだ』と、『私が抱けば抱くほどケツをデカくして、さっさと素直になればよいものを、そんなに私の赤ちゃんが孕みたいなら、早く旦那様と言え。すぐにでも赤ちゃんを孕ませてやるぞ…?』と…、僕のお尻をそう何度もいやらしいケツだと評価していた(ただ犯されまくって大きくなってきたというより、僕はそもそも大学生のころからズボン問題に悩まされていたため、それは多分関係ない)。
いや、そんなことを詳しく言えば、いよいよソンジュさんは本当にケグリ氏を殺すかもしれないので、言わないつもりだが。
「…チッ…あのセクハラ変態クソジジイが…、大体、軽率に安産型と言う男のなかに、まともなやつなんか一人もいません…」
「…………」
そう言うわりに、僕のお尻を揉みしだき続けているソンジュさんのそれにはさすがに、説得力がない。――感じてしまうな…それでなくともムラムラしているのに…、あるいはこれで、…彼を誘 え な い だ ろ う か 、なんて下心まで湧いてくる始末だ。――とはいえ、お尻を突き出すだ、振るだなんて勇気は僕にないのだが。
「…いや確かに…魅力的なお尻だ、…ぷりっと上向きで、引き締まっていながらもむっちりとしたこの柔らかいお尻…しかしだらしなく垂れているわけではなく、細いウエストから大きな腰骨、そしてこのむっちりと蠱惑的なお尻に続くこの体型、手のひらに収まるサイズでありながらも、ボリューム感と満足感のあるこの…――っそそられる気持ちは確かにわかるが、…だからといって、医療用語以外で安産型なんて人に言うのはセクハラだ」
「………ん、ぅぅ…♡」
鷲掴みでぷるぷる揺らさないで、…子宮に響く、
まあ、まあ個人的にはソンジュさんの、今の言葉にもまた、セクハラ要素がないとも思えないのだが。――とはいえたしかに、ソンジュさんの言いたいことはわかる。…安産型とイコールセックスを結び付けられる僕らからしてみると、正直そう言われていい気分はしない。
体型だけで赤ちゃんがどうとか、それこそそれを言ってくる相手が女性だろうが男性だろうが、イコールセックスの下心があろうがなかろうが、そんなことを示唆されても嬉しいどころか、不愉快に思うだけだろう。――端的にいえば、自分の意思には関係ないところで人を誘うようないやらしい体型だ、セックス、そして出産に価値がある体だ、と性的な意味合いで言われてるようなものなのだから。…デリカシーがないのは全くそうである。コンプレックスに思うような人だって、きっと少なくない。
そもそも、下半身のことを指摘するって――たとえ性器ではなかったとしても、なぜお尻は微妙にセーフラインにあるのだろう。…それこそケグリ氏のように、あからさまな下心の言葉のみならず、たまに女性でも「安産型ね、元気な赤ちゃんたくさん産めるわね」と悪気なく言ってくる人がいるようだ(いや、僕は幸いオメガ属らしくないために言われた経験はないのだが、避妊薬を貰いに行った産科でその会話を聞いてしまったのだ)。――でもあれって…人の性に踏み込む、デリカシーのない発言だよな。
「……は…、…ん……」
とか、なんとか考えないと――お尻、性感帯なのに…こんなことされていたら、僕、
「…あ…? はは、感じてしまったの…? 愛液、垂れてきてるよ…」
「…ぁ、……」
つぅ…と、僕の内ももに垂れてきた愛液を目ざとく見つけ、ソンジュさんが指摘してきた。――僕は恥ずかしさのあまり、
「ソンジュさん…、あの、そろそろ…ローブ着てもいいですか…」
ずっと人のお尻を揉みしだいて、…楽しむにしても、そういうタイミングで楽しんでほしいんだが。――濡れちゃったじゃないか、…垂れるほど。
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