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「……ユンファさん…何を、考えているの…?」
「……、ぁいえ、全然何も…ぼーっとしていました」
僕が下腹部を撫でながら、ぼーっと考えていると…ドライヤーを使い終え、そう気遣ってくれたソンジュさんに僕は、顔を伏せたまま笑って首を、横に振る。――すると彼、ふふ…と穏やかに笑い、後ろからぎゅう、と僕を抱き締めてきた。
「…嘘つきだな、貴方は……」
「……、…、…」
ずっと、こうだったら…――駄目だ、そんな期待はするべきじゃない。
二人きりの夢の中でなら僕らは、もしかしたらずっと一緒に、いられるのかもしれない――だが、一歩外に出れば、その幻想はたちまち消えてゆく。
ソンジュさんは僕の顔の横に、その顔を出し、そっと丁重な声でこう言うのだ。
「……此処から出たらすぐ、避妊薬、お渡ししますね」
「……、…、…」
胸が、苦しい。
僕の目がじわりと潤むが、何も言わずに僕は頷いた。
わかってた、はずなのに、…産んでくれと言われないことなんて、――わかってた。
本当に妊娠したら、どうするつもりだった?
まさかソンジュさんに、責任を取らせるつもりだったのか。…責任取って、僕と結婚しろとでもいうつもりか?
婚約指輪代わりのチョーカー。
ソンジュさんからのプロポーズ。
彼がもう用意したらしい結婚指輪。…風呂から上がったら、サインしろと言われた婚姻届――。
だが…ソンジュさんはつまり暗に今――その責任なんか取りたくないから、子供ができたら困るから、避妊薬を僕に渡すと言ったんじゃないか。
妊娠したくない、絶対妊娠なんかしない、命令されたってしない。――ノダガワの人たちの子供だって、ソンジュさんの子供だって、僕は絶対に妊娠しない。
そう思っていたが…駄目だった。
一度ソンジュさんの肌に触れてしまったら、彼に触れられてしまったら、…ソンジュさんに抱かれてしまったら結局、僕はほだされて――カナイさんだったとわかったからなおのことだ、…僕は、妊娠してもいいと思った。
馬鹿だけど――妊娠したいと、思ってしまった。
いや、ソンジュさんに責任なんか問わないつもりだ。
ただ、どうせ捨てられるというのなら、せめて子供…ひと時でも幸せだった僕の、記憶の欠片がほしい。――我儘だとはわかってる、でも、…九条ヲク家の人に取り上げられてしまうくらいなら、――どうせソンジュさんと結婚なんかできるはずがないんだから、こんなチャンス、もう二度とないんだから。
一人で育てたい。…此処じゃきっと、その子は許されない。……九条ヲク家の子としては、生きてゆけないことだろう。――性奴隷の僕なんかが、産むのだから。
「…………」
今撫でているこの下腹部には、淫紋のタトゥーがあるんだった。――おこがましくも、忘れていた。
期待しない。
期待なんかしないことだ。
…なぜ一週間の“恋人契約”を僕と結んだのか、それはまだ言えないというソンジュさん…――一週間後に、この幸せは覆されるのかもしれない。
貴方の優しさが怖い。
貴方の、たくさんの愛が怖い。
突然天地がひっくり返ったような、この幸せが――本当に怖い。
だから僕は――逃げるつもりだ。
その甘い夢が、覚めてしまう前に――。
「……――。」
逃げよう。
勝手かもしれないけど、ただの僕のエゴには違いないだろうが、――貴方のためにも、この子のためにも、僕のためにも――僕はきっと、此処にいちゃいけない。
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