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                   赤髪の男に連れ込まれたのは、真っ暗な駐車場だった。  街灯はあるが明かりは心もとないそれのみで、周りがグリーンのフェンスに囲まれ、それなりに広く、何台か車が停まっている。――また地面はゴツゴツとした黒いアスファルト、白線が敷かれ、駐車場のナンバーもある。   「もういいわ、…此処で十分でしょ。…」   「……っ、…」    そして、停まっている大きなワゴン車の影に、僕は引きずられるようして連れ込まれ――グッと強く引かれた腕、――ドタッとよろけた拍子に、僕は車に背を押し付けられ、その男に唇を塞がれた。   「…んっ…、……」    荒々しく唇を食まれ、無理やりに唇を舌で割り開かれて、入ってきた生臭い舌に、口内を蹂躙される。  先ほど初めて出会った男に、勝手なキスをされ――バスローブの上から、胸元をまさぐられて――目を瞑るでもなく、男の閉ざされた薄茶色のまぶたを薄目で、ただぼんやりと眺めている僕は――やっぱり、   「……、…、…」    やっぱり、僕は性奴隷だ。薄汚い、穢れた性奴隷。  いや、僕は自ら進んで、性奴隷に戻ったのだ。――僕のことを助けてくださった、ソンジュさんから自分で逃げてきたのだから…――このほうがよっぽど、僕なんかには相応しいに違いない。――だというのに、…おかしい、   「……ッ、…ふ……ッふク、…」    眉が、寄る。――目が潤む。  い…――生で胸を触られる。…乳首をくりくり、親指の腹で転がされ、…僕は自然、ふっと顔を横に背けた。   「……はぁ、…、…」   「…っ口ん中甘いね、やっぱマジでオメガなんだ……」   「……ッ!」    グッとバスローブの襟元を割り開かれた。  おかしい、…おかしいな、どうして、…――男は晒された僕の胸元をジロジロ眺めて、「乳首かわいーピンク色じゃん」とニヤついている。――外気に晒されたそこら辺は粟立ち、乳首もひんやりとした空気に凝る。   「てか乳首にピアスなんかつけてさぁ…勃ってるよ乳首。…嫌々なふりして、実はかなりノリノリじゃん…?」   「……ぅ…っ」    ニヤけている男の顔は、僕の首筋に埋まる。  おか、しい…よな…――僕の首筋に這う男の熱くぬるついた舌に、息を止める。…その感覚はまるで、なめくじが僕の首筋をねっとりと這っているかのようで、…い、…ゾクゾクと体が震える。   「…っうわ、マジで肌も甘い…美味しいよ……」   「……ッ、…は、……ぅ、…ク…ッ」    体が竦み、僕の下がった両手は背にした車の、その冷たい車体に縋る。…い…――歪んだ顔、歪んだ眉間に、片手の手首を押し付けてなだめる。  男は、「てことはお兄さん、おまんこもあるんだ?」と馬鹿にするように笑って、僕の下着に手を突っ込んできた。   「……ぁ…っ、…ふク、…」    ぬる…ぬる…と膣口を撫でて確かめてくる、男の太い指。――ビクンッと跳ねた僕の体は、性奴隷らしく感じている。…感じている…。 「…マジでまんこあんじゃん、この顔でまんこついてたの? はは、…てか、めっちゃ濡れてるけど…?」   「…んっ……ク、ぅぅ゛…、…、…」    僕の唇が自然と、声もなく動いた。――い、  ぬちゅっと入ってきた男の指二本、ぬちゅぬちゅと浅いところを出入りするその感覚に、ぶるりと震える。   「…ナカほっかほかの、ぐっちょぐちょじゃん? こんな嫌そうな顔して、おまんこめっちゃ濡れてるよ…ははっ…乳首にピアスつけてるし、超淫乱。…誰かに飼われてたりすんの、お兄さん?」   「……っはぁ…、…んん……」    僕は固く目を瞑った。――今更なんだというんだ?  途端に、グチュグチュと荒々しくナカを掻き回す二本の指、ガクガクと震える太もも――馬鹿、だけど、…い、   「……っ、……ゃ…――嫌だ、やめてください、!」    い、――嫌、…嫌だ、  おかしいな、凄く嫌だ、…今まで数え切れないほどの人に犯されてきた、――今更だ、誰にでも股を開く性奴隷のくせに、拒む権利なんかないくせに、僕は犯されなきゃいけない立場なのに、…ブスで出来損ないの僕なんかを犯していただけるだけ有り難いと思わなきゃいけない、――全部、…全部自業自得だ、覚悟して、諦めて、罰なんだから、これはお仕置きなんだから、…おかしいよな本当、――僕は性奴隷、…性奴隷なんだ、僕は性奴隷なんだから、   「……んぅ…っ」    嫌だ、――怖い、気持ち悪い、嫌だ、  キス、キスがこんなにも気持ち悪い、――ソンジュさんの唇を思い出してしまう。…優しくて柔らかく、気持ちよくて良い匂いで…――彼の優しい水色の瞳が頭に浮かぶ。    ソンジュさんの泣きそうな目が見える。     “「……ユンファさん、…もういいよ。もういいんです」”      ――…え…?     “「…もうやめてくれ、…俺が辛いんだ、貴方の性奴隷の顔を見るのが、俺は、…()()()()()()()()()()――。」”     「……ッ、…〜〜ッ」    違う、違う、――僕は性奴隷だ。僕の唇は無料だ。  誰でも、どのようにでもキスをしていい唇。値段すらつかない唇だ。    ちんけな唇。  所詮僕の体は、安っぽい体…――。  タダまん、肉便器――犯されて当然の、性奴隷。    ナカに挿れられて、気持ち良くなっていただくためのオナホ…――好きに、誰にでも、ナカに精液を吐き出されるだけの公衆便所――今更綺麗になんかなれない。…ソンジュさんには相応しくない、あり得ない、浅ましいメス奴隷、マゾの変態、淫乱のメス犬、中出し専用肉便器、拒む権利なんか与えられない、都合よくいなきゃいけない、面白く遊んでいただくためのオモチャ――…嫌、     “「可愛いね、ユンファ…本当に可愛いよ、綺麗だ…」”      ――やっぱり、…嫌だ、     「……っ! ご、ごめ、…ごめんなさい、嫌だ…っ! やっぱり嫌です、ごめんなさい、…っ」    キスをされていたが、思わず顔を背けた僕は、嗚咽をこらえながら男を押し退けた。  そしてさっと、逃げようと身を捩った。   「……っ!」    しかし、男はそれを許さず、僕の二の腕をギリッと痛いほど掴んで、   「…おいおい、今更何いってんだよ、…ほらとりあえずしゃぶって」   「……っ嫌…、嫌…ごめんなさい、お許しください、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい……」    嫌…嫌、と僕は、泣きながら首を横に振った。  だが…「ふざけんなよ、…今更そんなん駄目に決まってんじゃん、早くしろよ」と男に強く両肩を押され、僕は地面に、なかば無理やり膝を着いた。       

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