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                  「…ごめんなさい、貴方の恋人なんて、契約でもやっぱり僕には身分不相応です、そんなのとても烏滸(おこ)がましいことだから…――だから、どうか僕にお仕置きをしてください、…お願いします……」    きっと、僕の醜い下心のせいだ。  ソンジュさんの側にずっと居られたら、彼のつがいにしていただけたら、僕は性奴隷の自分も、僕を犯す人々のことも、汚くて醜い自分の現実も――もう見たくないものを見なくて済むと、思ってしまったのかもしれない。    なんてはた迷惑な話だろうか。  僕は利用しようとしていたのだろう。  自分の安楽のためにソンジュさんを、彼の優しさを、温情を――愛情を――性奴隷のくせに、調子に乗って彼のことを利用しようとしていたのだろう。    そうではもはや、ソンジュさんのことを本当に愛しているのかどうかも怪しい。――どうなれば本当の愛なのだろう、どこまでゆけば本物の愛になるのだろう、どんなものが真実の愛なのだろうか。――僕にはとてもわからないが、少なくとも僕はきっと、自分が救われたいがためだけにソンジュさんに恋をしたようなもので、そのために彼を愛している風のポーズを取っていただけなのだと思う。    それじゃ僕はまさしく、アルファの寄生虫だ。  所詮は僕もまた、()()()()()()だったということだ。  ケグリ氏の言う通りだ。僕は結局、アルファであるソンジュさんの魅力には(かな)わず、コロッと惚れてほだされて、つがいにしてほしい、彼とセックスがしたい。    浅ましくアルファを求めてしまう――惨めなオメガ。  それが僕の本能であり、肉体であり、精神なのだ。  そして魂でまでアルファを求めて、あわよくば寄生し、甘い蜜を吸おうとしているのだ、僕は。――だからあんなことを口走ってしまったのだ。   「…ソンジュさんの伴侶になることは、性奴隷の僕の役目ではありません…――貴方のつがいになることも、僕の役目ではない…。弱くて馬鹿で、人に媚びて従うしかできない無力な性奴隷が、何かを変えられる力を、持っているはずがありません…――僕は、…貴方の恋人ですらない…」    僕の涙が落ちていった。  ぽたりと、僕の腿の上に投げ出されていた血まみれの、その黒い肉球――大きな手のひら、ソンジュさんの血と、僕の涙が混ざり合う。   「…醜くて浅ましく、本当に穢れた性奴隷なんです、僕は…もう、魂から、…貴方のように素敵な人の、恋人になれる権利なんかないんです、…僕には初めからなかったんだ、そんな権利……夢を見ていたようなもので、良い夢を…、でも、本当は契約ですら烏滸がましい…――ですからもう、この“契約”はもう、破棄してください……」    ここまで言えばきっと、わかってくれただろう。  もう幻滅してくれただろう。…こんなに穢れた性奴隷なんかじゃ、もうつがいにしたいなんて、思わなくなったことだろう。――僕はなかば安堵して、目を瞑った。         

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