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「……イった…ようだね…? 正直、俺は何もしていないのだけれど……」
僕を横抱きにしたまま立ち止まり、僕の様子を見ていたらしいソンジュさんも、少し意外そうだ――ったが。
「…あぁ…あー勿体 ない、ユンファの美味しいザーメンが床に溢れてしまったじゃないか……」
「……は、…ぇ…?」
そう心から惜しむように、なかば苛立ちにも近く呟いたソンジュさんは、僕を床に下ろして座らせると――。
「……は…! ゃ、…やめて…! ソンジュさん、やめて…! やめてください、そんなこと…っ!」
しかしほとんど声にならず、僕のこれは吐息ばかりの制止だが、僕はその人の肩を掴んで半泣きで首を横に振る。
ソンジュさんは床に垂れ滴った僕の精液を、這いつくばって舐めとり始めたのだ。…床に両手を着いて犬のように、顔をやや傾けて白く鋭い牙の隙間から赤い舌を出し、床の白濁をペチャ、ペチャと…結局見ていられないと僕は顔を横に背けた、今は羞恥ともなんともいえない複雑な気分だ。
「…はぁ…っ、…〜〜ッ」
僕は横に顔を背けたまま下唇の裏を噛み締め、眉を寄せながら、固く強張る目を瞑った。
ただ――ソンジュさんはペチャペチャと床を舐めていたかと思えば、今度はにわかに、僕自身を舐めてくる。
「…あ…っ?♡ やっ…やあ、♡ 嫌だ、ソン…やっやめ……〜〜ッ!♡♡♡」
イッたばかりではかなり敏感――それもオメガ排卵期中ともなると、若干痛いほど強く感じてしまう――ソンジュさんの長くて大きなぬるぬるの舌が、精液のついた僕自身を、濡れそぼった膣口をベロベロめちゃくちゃに舐めて、そこらの体液を舐め取ってくる。
僕は脚を閉ざしたいと内股になり、やめてくれ、とソンジュさんのさらさらした毛に覆われた頭を必死に押し退けようと試みるが、…びくともしない。
「……はは、ちゃんと舐め取らなきゃ勿体ないでしょう…? 無駄になんかできない…この愛に懸けてね…、折角ユンファの体が作ってくれた、神 聖 な る 甘 露 は…俺が、責任を持って全部舐め取らなければ……――ふ、ふふふ…だけれど、おかしいねユンファ…、……ほら、舐めても舐めても…どんどん甘 露 が溢れてくる……」
「…んっ…♡ ふぁ…♡ ……ッぁぁ…♡♡」
下腹部がぴく、ビクンッと跳ねてしまう。
ソンジュさんに膣口を舐め回されるたび、目を瞑っている僕は涙を流しながら、はっきりいって物凄く感じてしまっているのだ。――そして僕がビクつくたび、こぷっ…こぽっ…と、愛液がたっぷりソコから溢れ出てしまう。
「もうやめて、…んっ…♡ 嫌だ…っこんなの、…〜〜っ」
もうよくわからないで、僕は泣いてしまう。
するとソンジュさんは、おもむろに頭を上げ――僕の頬をぺろ、ぺろ…そこにある涙の道筋を舐め取ってくる。
「……可愛いね、ユンファ…泣いちゃった…、泣くほど恥ずかしかったの…? それとも…泣くほど、気持ち良かった…?」
「…ふっ……ふぅ、…っうぅ……!」
自分がいま泣いている理由は、正直なところよくわかっていないのだが、僕はわかっていないなりにもふるふると歪んだ顔を横に振った。――ソンジュさんはそんな僕をまた横抱きにして持ち上げ、とす…と僕の頭を、自分のふかふかした胸板へもたれさせる。
「…いじめすぎちゃったのかな…ごめんね…。だけれど、どうやらユンファさんの体のほうは、正直なようだ…――わ か ら ず 屋 の 石 頭 とは違ってね…貴方の体ばかりは、俺 の つ が い に な り た い らしい…。ふふ、ククク……」
「…は…っあぁ…♡♡♡ …ぅ、…うク、…〜〜ッ!」
違う、違うと泣きながら、僕は顔を横に振り、肩を竦めながら横へと顔を背けた。…顔を隠したいと思ったのだがしかし、隠すにしてももう腕に力が入らないので、力なく軽く曲がった腹の上から腕も手も動かせないのだ。
どうしてだよ…――もう本当におかしくなってるじゃないか、僕、
「…だーめ…駄目じゃないか…? 泣くならちゃんと俺の胸で泣いてね…、俺の可愛いユンファ……」
そう甘い声でいうソンジュさんは、ぐっと僕の体を傾けて――するとあえなく僕はこてん…またソンジュさんの、そのふかふかとした胸板に頭を預けるようになり――そうなると、僕はもう諦め。
「……っひ、…っ、…っはぁ、…っ」
その人の胸元で目を瞑り、ただしゃくり上げて泣く。
泣きすぎて目の奥が熱く、痛くなってきた。――しかし僕の泣き顔を見下ろしているソンジュさんが、うっとりとこう呟く。
「…なんて綺麗な顔だ…。やはり…貴方は泣いていても、とても美しい…。でも、駄目…――ユンファの賢い頭でもちゃんとわかってもらわないと、俺は困るから……」
「……は…っは、…ふ、…く…っ」
駄目だと頭ではわかっている――それなのに、本能によろめいた僕の体は、馬鹿みたいに疼いている。
うなじがドクドクと脈打ち、もぞもぞと蠢 いているような感覚さえする。
僕の意思とは反して、僕のうなじは彼を求めている。
もういっそ楽になりたい。…もぞもぞビリビリともどかしく疼いているうなじに、いっそのこと鋭い痛みが欲しいとさえ思えてきた。…すると途端にこの気持ち悪さが消えて、僕がいま味わっている不快感から解放されるのだと僕は、本能的にわかっているようだ。
僕のうなじには何か、僕 と は 別 の 生 命 体 が棲み着いているようですらあって、気持ち悪い。――そしてソ イ ツ は僕のことを狂わせ、僕の体を支配して…いつしかきっと僕の精神すらも侵食し、支配してくるに違いない。
怖い。――早いところソ イ ツ を噛み殺してほしい。
ソンジュさんのその鋭い牙で――う な じ に 寄 生 し た ソ イ ツ を、噛み殺してほしい。
「……我が銀狼 よ…、貴方はもう、潔く諦めるべきだ。――貴方の運命は、もう既に決められているのだから…。もう自分で自分を穢すのはいい加減にやめて、誇り高き銀狼に戻ろう、ユンファ……」
「……は、ぁ…――?」
ぞくぞくぞく…と、僕の背筋が戦慄 いた。
銀狼 ――ソンジュさんが放ったその単語に、なぜか僕のうなじが、ドクンッと大きく脈打ち、ぞくぞくと背筋を震わせたのだ。
やはり何 か が、僕のうなじに棲みついている。…僕ではない、別の生命体…何 か が僕のうなじに棲みつき――ドクンッ…ドクンッと脈打ちながら、蠢 き胎動を――何 か がまるで、今に目を、覚まそうとしているかのようだ。
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