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僕が運ばれて行ったのは――浴室だった。
その浴室の床に下ろされた僕は、浴槽を背にして――それを支えにして――膝を立てて床に座り、目の前に立つソンジュさんに、じっと冷たい目で見下されている。
僕は床に座ると、真上というほど顎をぐっと思い切り上げなければ、その人の顔が見えない。…というのも、僕の目の前に立ちはだかるようなソンジュさんは今、二メートルを越えた背丈がある。
そんな彼にそうして、青白く光る氷の瞳で鋭く見下されると、全身が押しつぶされそうなほどの重圧を感じる。
蛇に睨まれた蛙というように、僕はカタカタ震えながらも身が竦んでしまうのだ。
「…許してほしい…?」
「……、…、…」
僕は何度もコクコクと彼へ向けた顔を頷かせた。
するとその人は、ふふ…と柔らかく鼻で笑い、その狼の顔をくいと傾ける。
「…じゃあ…脚を大きく開いて、俺にユンファのオナニーを見せて」
「……、…へ…?」
オナ、ニー…?
きゅん、と僕の膣口がそ の 単 語 に反応した。
その淡い水色の瞳は、凍り付いたように冷ややかだ――僕のことを猜疑心 で見ているのは間違いないと確信するほど――しかし、大きなその口の口角は上がっており、ソンジュさんのその笑顔にはどこか、子供ならではの残虐さも垣間見える。
「…僕をソンジュのつがいにしてください…、愛してるソンジュのつがいにしてください…、つがいになるから、逃げたことはこれで許してください…――大好き大好きって言いながら、俺に恥ずかしくオナニーしている姿を見せて、俺への愛を示してくれ。…ふふ…」
「…ァ…〜〜ッ♡♡♡ 〜ッん、…」
やっぱり僕の体は、その単語 に反応している。…痺れている子宮がぎゅうっと絞られたような快感が訪れ、すると僕の腰がビクンッと跳ねた。
ソンジュさんは愛おしげなうっとりとした笑みを浮かべると、その場へとゆっくりしゃがみこむ。
「…俺のことを本当に愛しているなら、できるはずでしょう…?」
「……、…、…」
はいともいいえとも言えない僕の唇が、ソンジュさんの微笑を見ながら意味もなく開閉する。
だが、いくら一時的なプレイとしても、そ ん な こ と を迂闊に言ったら――単に自慰を見せるだけならば正直慣れているから、まだいいとしても――わかった、いいよ、なんてつがいにされてしまうかもしれない。…あくまでも指示されて言わされているばかりのそ の セ リ フ を、言質 のように捉えられては困るのだ。
そんな僕の困惑を察したらしいソンジュさんは、ふふ、とまた笑うなり、僕の顔を覗き込んでくる。…傾いたその人の微笑みは、残虐行為を楽しんでいるような恐ろしい顔である。
――まるで悪気もなく蝶を捕まえ、好奇心のままその蝶の羽をむしり取り、殺してしまう子供のような笑顔だ。
「…大丈夫だ、ユンファ…今 は ま だ そ の と き じ ゃ な い からね…――今はまだ俺、ユンファのことをつがいにはしないよ。…ただ、俺から逃げた貴方にはそれ相応の、罰 が必要だ。貴方が欲しかったんでしょう…罰が。ユンファはお仕置きを、してほしかったんでしょう……」
「……ふっク…♡ …は、…」
そのときじゃない…――?
ソンジュさんは「約束してあげる」と優しい声で言い、僕の頭をふわ…ふわ…とその大きな片手で撫でてくる。
「…それに、貴方の頑張りようによっては…そうだね。ユ ン フ ァ の 望 み 通 り に し て あ げ よ う かな。…貴方が俺を深く深く愛しているとわかったら、俺だって不安のあまりにユンファを、つがいにしなくても済むかもしれない…」
「……んっ…♡ …、…、…」
一理はあるだろう。…情緒不安定なところのある彼が、不安に掻き立てられたあまりに、僕のことを……にしてしまう…というのは、確かに有り得ることだ。
僕は斜に顔を伏せながら――おずおずと、震える太ももをゆっくり…開いた。
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