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大きな手――人間の姿であるソンジュさんの手より大きく、黒い肉球のついた大きな片手――が僕に差し出しされた。僕がその手を取り、支えられながら立ち上がると。
ソンジュさんは、濡れて重たくなった僕のバスローブを脱がしてずしゃりと床へ落とし、後ろから、僕のことを包み込むように抱き締めてきた。――ぴとりと彼の長い毛足が僕の背中に密着すると、なんともいえないもぞもぞとした感覚がする。…それに、やはりどうしてもうなじがゾクゾクとしてしまうのだ。
その状態で彼は、「さっき舐めておいたけれど、やっぱり洗おうね」といって、手で泡立てたボディソープを、僕の体にぬるぬると滑らせはじめたのだ。――さっき玄関で僕のさまざまなところを舐めてきたその意図は、そういうことだったらしい――そして、「あの男が触れた場所は?」と、僕に聞きながら。
片方の腕を掴まれた――そう言えばソンジュさんは、念入りに、何度も何度も僕のその腕を擦って洗った。
そして今も、「…他には…?」と聞いてきたため――僕は。
「…手を、取られ、て……」
こっちの手、となんとなし僕は軽くその手を上げた。
するとソンジュさんは、やはり不機嫌そうに低い声で。
「……手…ね。ユンファの綺麗なこの手に、あんな下劣な男が触れたんだ…、っ虫酸が走る、なんて穢らわしいんだ、――アイツのことは探し出して…俺、ち ゃ ん と お 礼 を し て お く からね、ユンファ……?」
「……、…、…」
そう言いながらソンジュさんはグゥゥと唸り、僕のその手を取り後ろから、まずは手のひらを揉みこむように、泡を使って――怒っているようなのに、その手つきはマッサージをしているかのように優しい――、丁寧に洗ってゆく。…僕はなぜか頬が熱くなり、瞳を伏せて何とも言えないのだが。――ベタ惚れ…これも一種のそれか、大切にされているというのは、こういうことなのだろうか。
「…ユンファ、賢い貴方ならおかわりでしょうけれど…ユンファが悪いことをしたら――たくさんの人が、地 獄 に 行 か な き ゃ な ら な く な る んだ……もう駄目だよ、悪いことをしたら……」
「……は、はい…、ごめんなさい……」
指の股から、指先まで…一本一本、あまりにも丁寧につままれ、揉まれて――ぼーっと僕は、そうされている自分の手を眺めている。…先ほどはあんなに怖かったソンジュさんが、今はとても優しくてホッとする。泣いてしまいそうなくらいに優しくてあたたかく、それが僕は嬉しい。
「他には…?」
「…む、胸を……」
というか…乳首、なんだが。
するとソンジュさんは、「…ふぅん……」と不機嫌そうに鼻を鳴らし、ぬるり。
「……ぁ…ッ♡」
泡でぬるぬると滑らせながら、僕の両胸を揉むようにして撫でてくるソンジュさんの、その大きな手――コリッと押しつぶされた乳首は、大きく撫で回すように動く手のひらに、こね回される。
両胸をそうされると、…下唇の裏を噛む僕は。
「…ん…♡ …く…ッ♡」
呑気なものである。
本当に自分が嫌になるが、気持ち良くなってしまうのだ。…あの男に触られたときはあんなに嫌だったのに、不思議だ。――これまでどんな人に体を触られ、見られ、好き勝手もてあそばれても、そんなものだ、僕は性奴隷なんだから、と思ってきた。
しかし先ほどの僕は不思議ともう…今朝まで性奴隷だったというのに、不思議と――嫌だ、と思った。
「……くん…♡ ……ぁ…♡」
いや逆にいうと、こうして僕の胸板を揉んでくる相手がソンジュさんだと、僕は素直に感じてしまうらしい。
どんなシチュエーションであっても結局、僕はソンジュさんが相手ならば、腰からビクンッと跳ねて反応してしまう――彼ならどうされても気持ち良いし、触れていただけるだけでも本当に嬉しい。
「…ふふ…可愛いな、気持ち良いの…?」
「……、気持ち良い…ですし、何よりう、嬉しい…ソンジュさんに、触れていただけて…、それに僕、不思議と…さっき…――いや、僕がい、言ってはならないことかもしれないが、…正直…嫌、だった…。キスも、体を触られるのも、舐められるのも全部…本当は……」
貴方に触れていただけるとこんなにも嬉しくて、本当に気持ち良いのに――僕が頷いて告白すると、ふ…とソンジュさんが小さく笑ったような、そんな吐息の音が聞こえた。
ぬるる…と彼の片手が下がって――もう片手は、僕の片胸を包み込んだまま――僕のみぞおちをぬるぬると円を描いて撫で、腹をそのように撫で…下腹部を撫で回してくる。
「…凄く可愛い…、じゃあもう、他の奴に体を触らせたりしては駄目だからね、ユンファ…」
「…ん…♡ はい…、…ソン、ジュさん……」
それだけで僕の体は期待しているのか、ぴく、ぴくん、と腰から上が反応している。――これだけで子宮が疼き、いや、もはや子宮を腹の上から撫でられるだけで感じているのだが、しかし何も入っていないナカは寂しい。…またうにょうにょナカが物欲しそうに蠢いてしまうし、勃起した上向きの僕のモノがピクンピクンと頷く。
下腹部を撫でてくる彼の、その濡れた毛皮のその大きな手の甲に、僕は片手を添えた。
「……? ふふ…なあに…?」
「………、…」
ほろりと甘く、率直に言ってしまいそうだった。
頬も耳も熱くて堪らない。…言い訳なのだが、ソンジュさんの、…その…アレが、熱くて硬い――アレが、僕の腰の裏に押し付けられているのだ。そのせいだ、いやそのせいだけだ、とはとても言い切れないのだが。
「…ぁ…当たって……当たってます…、あ、あの…」
言いそうになった。
抱いてください…このまま抱いてほしいです…コレを僕のナカに挿れて…孕ませてください…めちゃくちゃにして…たくさん僕のナカに出して、赤ちゃん…僕を妊娠させて…こ こ に、貴方の赤ちゃんが欲しい…――いつものことといえばそうである…オメガ排卵期中はこういった類のことしか頭に浮かばないものなのだ――しかし、まさかそんなことを言えるわけもない僕は…結局それは、言えなかったが。
「ふふ…何が、どこに当たっているの…?」
「……、そ…ソンジュさんの、お、おちんちん…が…僕の腰に…当たってます……」
僕が囁き声にも近いほど小声でそういうと、ソンジュさんはふふ、としたり笑い「そう…?」とはぐらかした。
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