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                「ですから俺は、わかりやすくいえば抑制薬…というような、時期のコントロールのみならず、精神安定剤としてもピルを常飲しているんです。――また高用量ピルも飲んでいますが、それに関しては“狼化”の時期をコントロールするものではなく、単にいえば、俺の衝動性を抑えるための頓服薬です」    そう上のほうを見ながら説明してくれたソンジュさんは、自分の片胸――ワイシャツの胸ポケットを片手で、ゆるく押さえる。   「…そして、もちろんいざというときのための頓服薬ですから、用意している着替えには(あらかじ)め入れておくようにしています。――いつでも飲めるように…先ほども飲みましたので、今は多少マシですよ」   「……なるほど…」    ということは、先ほどソンジュさんがさっと飲んでいた薬は――頓服薬の、高用量ピルだったのか。  僕が頷きつつ、なるほど理解できたと呟くと、ソンジュさんはどこかホッとしたような微笑みを浮かべて僕を見下ろした。  しかし彼は僕と目が合うなり、さっとまた上を向く。   「…ええ。しかし、今日は特に酷い…、それの原因は恐らく、…貴方が何も悪くないことを大前提に――()()()()()()()()()()()()となっているように思います」   「……、…」    僕が、原因。  たとえ僕が悪くないことは前提として、という言葉を添えられていても、やはり少しドキッと胸を刺されたような思いがする。――僕は顔を前に戻し、ドキドキと胸の重たい鼓動に苛まれながらも、しかし真剣にソンジュさんの言葉を受け止めようと決める。   「…どうしてもユンファさんのフェロモンを嗅いでいると、アルファの本能を煽られるようなんですよ。あるいはこのままじゃ、その内に抑え切れなくなってしまうかもしれませんし…――更に有り体にいえば、ユンファさんに見惚れたり、貴方に触れてもらえたり…そうしてドキドキと胸がときめいてしまうと、いくらコントロールのための薬を飲んでいても、俺の衝動性は増しているように思います……」   「……、…」    ああ、そうか…――ドキッとしてしまった、呑気にも。  だからソンジュさん、先ほどから僕のことを見ないようにと上のほうを、あえて見るようにしているらしい。…それも僕のために、僕を襲わないために。  先ほどから僕を離そうとしていたのもそうだが、あの「今はヤバい」というのだって、何も僕が不細工だとか、気持ち悪い顔をしていたとか、本当にそういうことではなく――もしかすると本当に、…その、僕が綺麗すぎる、と胸がときめいて、  み、見惚れ…いや、それはさすがにオーバーだろうが、僕に触れられるだけでも、ドキドキ…――ドキドキ、して、くださっていたのか。…そう知れてしまうと僕は、正直調子に乗りそうだ。  ひく、と下げた僕の手の指先が、ソンジュさんに触れたがって、でも堪えて、ほんの緩く拳を握る。   「……、…、…」    信じられないくらいだ。信じられないくらい、凄く…ソンジュさん(好きな人)に僕、大切に、されている。  頬が熱くなり、僕は顔を伏せ気味にきゅっと目を瞑った。――嬉しいのだが、胸があたたかいのだが、トクトクと心臓がはしゃいでいて苦しい。   「それに…その、ユンファさんに拒まれたり、冷たくされると…俺はどうしても不安になってしまうんです…。焦燥感も相俟(あいま)って、すると、普段よりもカッと頭に血が上りやすくなっている…――本当に、信じられないかもしれませんが…俺は本当に、本当は…ユンファさんを大切にしたい。貴方に優しくしたいんだ……」   「……信じられないくらいです…」 「そうでしょうね、本当に申し訳…」   「いえ、信じられないくらい…大切にしていただいています、僕は…ソンジュさんに……」    僕は熱くなった目を薄く開けて、ソンジュさんのパリッとしたワイシャツを纏う胸元に片手を置いた。   「…嬉しい…信じられないくらいだ…、…いつ、どのように犯してもいいような…大切にする必要なんかないような…性奴隷、これまでそんな風に扱われてきた僕を、貴方は…――ソンジュさんは、本当に信じられないくらい、僕を大切にしてくださっています…、ありがとう……」    僕は自然と眉が寄った。顔も熱い。ほろ、といよいよ片目から涙が落ちていった。――しかし、あまりにも幸せで、微笑んでいた。   「……、ぁ、…ほ、本当にヤバい、――綺麗すぎるよ、本当に…ユンファさんは……」   「……、…」    僕は顔を隠すように、ソンジュさんの胸板にコツンと、額をぶつけた。   「…僕は夢を、見ているのか……」    すると、ソンジュさんはふわっと僕のことを抱き締めて、決意に固くなったような声で。   「……いいや。これは夢なんかじゃない。」   「…、……――。」      ()()()――いや、まさか。       

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