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【14】目覚める夢

            「……、…」    僕はパジャマの袖、手首側で濡れた目元と頬を拭った。  そして目頭や目尻は親指の腹で、すると、コシはありながらもやわらかな自分のまつ毛の感触のせいで、――自分のものであるというのに――目も指も少し擽ったく、(かゆ)いように感じる。…しかしそれがなぜか、僕の気持ちを少しだけ和ませてくれたのだ。  それから僕はやや詰まり気味の、狭くなった鼻からすうっと息を吸い込み、一旦息を止める。   「……っよし…、…」    そうして、あえて声に出し自分を鼓舞したあとに僕は、ふっ…と勢いよく、鼻と口から同時に息を吹き出した。    この一週間は、悔いが残らないように過ごそう。  できる限り努めて僕は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、この一週間を過ごすのだ――。   「……、…」    いや…えと、恋人、として――それはまあいいんだが、意気込んだはいいものの、…ならばそもそも僕は、ソンジュさんの恋人として…どう過ごしたらいいんだ?  さながら堂々巡りだ――また()()()()に直面してしまった僕である。    だから僕は、下手な十代の子よりも()()()()何も詳しくないんだろうが(いや、よっぽど青春している十代のほうが詳しいに決まっている)。――僕はどだいロクな恋愛経験もなく、ロクにロマンス作品にも触れてこなかったせいで、恋だ愛だという定義上のパートナーシップに関することは、はっきりいって何も明るくはないのだ。何が()()()()()だ、早速前途多難である。    まあ僕は『DONKEY』にて“恋人プレイ”という、いわば仮初(かりそ)めの恋人関係を(お客さん相手に)演じてはきたものの、それというのはセックスの前座、あるいはセックス中のことでは――ソンジュさんと共に過ごす一週間のうち、どう考えても()()()()の時間のほうが多いわけであるから、それはあまり参考にはならないことだろう。    ――そもそも所詮作り物は作り物、演技は演技である。  それこそ映画やドラマなどでも、俳優たちはみなそれらを誇張して演じているし、監督だってわざわざ誇張した演出をしているではないか。  わざとらしくはない、だがリアリティがあるとも言えない――そういった、絶妙な塩梅で誇張されているからこそわかりやすく、また面白い娯楽やエンタメの中のことと、僕がこれまでやってきたこととは、ほぼ同様のものである。――つまり『DONKEY』での経験は、僕は一旦忘れておくべきなのかもしれない。   「…………」    しかし…思えば僕は、ソンジュさんと甘い雰囲気になったとき、――彼相手に『DONKEY』でしてきた恋人の演技をしなかったからこそ――なかなか素直にはなれなかった。…それこそ思ってもない「セクハラですよ」なんて言葉で、しばしばソンジュさんからのスキンシップを拒んできてしまったように思うのだ、我ながら。    ――だが、これからはそれじゃ駄目だろう。  より恋人らしく、より明確に、これから一週間はソンジュさんの恋人として過ごす、というのだから――僕はまずそうして、照れるあまりに彼を拒んでしまうようなことは、できる限り控えるべきなんじゃないだろうか。    ということで。ここは決意新たに僕は、自分へとこう()()しておこうと思う。   「…僕はこれから一週間、ソンジュさんからのスキンシップを拒まない。……」    いや、しかし。  僕のような人は拒まない、というよりか、()()拒まない、というくらい覚悟しておかければならないかもしれない。――ケースバイケースで拒んでもよい、という余地を残しておいてしまうと、僕のような人はおそらく、その余地に甘えてあぁだこうだ理由を付け、結局、彼からのそれらをほとんど拒んでしまいそうである。        なので――訂正しよう。       「…これから一週間…僕はもう、ソンジュさんからのスキンシップを、一切拒まない。…」             

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