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それこそ母さんは、父さんのことをああして「パパって天然でしょ? あんたもだけど」なんていっていたわけだが、しかし、そう言われるような父さんもまた「ジスさんは天然だなぁ。ユンファ、君もうっかり屋さんなんだからよくよく気を付けるんだよ〜」なんてニコニコしながらよく言っていたし、そして僕もまた、かねがね両親は抜けたところのある可愛い人たちだと、正直我が親ながらも思ってきたのである。
――すると…もしや僕たち家族って、実は全員五十歩百歩、全員どんぐりの背比べ的な(無自覚)天然だというのに、全員が全員「(他二人はどうしようもない天然だが)自分が一番しっかり者だ」なんて、そうした妙 な 共 通 認 識 を持っていたんじゃないだろうか…?
まあ、僕は今になって自分が、自分で思っていたよりも抜けたところのある人だとは気が付けたわけだが…となると、これは血…ではないが――恐らく僕は彼らに育てられてゆく過程で、両 親 の 天 然 を 受 け 継 い で し ま っ た のだろう。
いや、そりゃあ乳児の頃から両親の笑顔を真似て笑い、笑顔をそれで覚え、両親の価値観を教えられ、それを受け継いで大人になってきた僕が、そ れ をも受け継いでしまったのは正直、無理もない話だが。
となるともしや…この件、僕は尚の事少なからず、アウェーなのでは…――?
「……はぁ…、……」
まあなんにしたって、ロールモデル作戦は今のところ進捗無しである。
あと身近なカップルといえば、せいぜい祖父母や親戚の夫婦、大学時代の友人たち――とはいえ友人に関してはどれも、「彼女できたんだよね」とスマホで写真を見せられながら自慢された程度のこと――であるが、…どれもこれも参考になるほど詳しく知っているわけじゃないか、あるいは熟年夫婦すぎてそもそも参考にはならない。
じゃあスマホで「恋人らしいこと 付き合いたて」というような検索をしてみたくとも、そもそも自分のスマホ(というかソンジュさんに勝手に買い換えられたスマホ)が手元にないどころか、どこにあるのかさえ僕は知らないのだ。――詰んだ。
「…………」
あるいは、またソンジュさんに直接聞いてみるか――いや。
そうしたってどうせ、先ほどと同じ展開になるだけだろう。…つまりソンジュさんに、「恋人らしいことって何をすればいいですか?」と質問をしてみても、また羞 恥 プ レ イ よ り 羞 恥 プ レ イ な 要 求 をされて終わりそうな気がするのだ。
いや、しかしそこで嫌だからやらない、というのは安直か。――これは割に単純なことかもしれない。
つまり僕は、恋人のソンジュさんが喜んでくれるようなことがしたいわけだ。――これをもっと細分化していえば、よりソンジュさんに好かれたい、彼にドキドキとときめいてほしい、ソンジュさんの喜んだ顔が見たい。
「……、…」
どうしたら…喜んでくれるの、か。
それを基準にすると――羞 恥 プ レ イ よ り 羞 恥 プ レ イ な 要 求 で思い出したが、そういえば…その質問したとき、ソンジュさん――。
“「……ならこれはどうですか、ユンファさん。――ソンジュ、今夜どうかな…? 今日は僕、君といっぱいイチャイチャしたいな…♡ 優しく…してね…?♡ それと、いっぱい頭なでなでして♡ いっぱいぎゅうって抱き締めて…♡ あと、僕にいぃっぱい、キスしてほしいにゃ…♡」”
「……、…、…」
すると僕はこ れ を今夜言うべきなのかと考えた、しかしそれだけで羞恥心を覚え、かあっと耳や頬が熱くなった。
にゃ゛…? 眉が寄る。相変わらずしんどいとは思うが、しかしこ の セ リ フ というのはすなわち、ソンジュさんが僕に言ってほしいことではあるのだろう。
ましてや僕の“ToDoリスト”の中にも、『自分からセックスに誘う』という項目があるわけだし、合理的に考えれば僕のほうから、こうして誘うべきというか――ソンジュさんとしても僕のほうから、こ の よ う な セ リ フ で、セックスに誘ってほしいのではないか。
まあ僕としても、時間は一週間しかないわけだし、それこそできることなら、最後の日はやっぱり妊娠してから、彼のもとを離れたいところである。…ならばやっぱり僕は、できる限りこの一週間は毎日、ソンジュさんとセックスをしておきたいわけだ。――すると例 の ペ ア にされてしまうリスクは生まれるが、まあ、正常位にこだわればあるいは回避もできることだろう。
そうなれば、ソンジュさんが喜んでくれる――その上、彼に抱いてもらえる――スムーズにセックスができる。
つまりあの羞 恥 プ レ イ よ り 羞 恥 プ レ イ な 要 求 に応えて、僕が多少恥を忍んででもア レ を言うことには、割とメリットがあるように思えるのだ。――よし。
「……こ、今夜…どうかな、ソンジュ…――ぇ…えっち、したいな…僕、君と…。優しくしてね…、いっぱい頭を、なでなでして…、いっぱい、ぎゅうって…して…。いっぱい、キスもしてほしい……にゃ……、いっいちゃいちゃ、したいな…いっぱい…僕、ソンジュと……」
僕はとりあえず予行練習として、かなりの小声でこう口に出してみた。……が…――。
「……、ング、ふっ…〜〜ッ!」
そもそも笑いを堪えながらなんとか最後まで言ったはいいものの、…駄目だ、無理だ、あまりの恥ずかしさに笑いそうになる。…やっぱり浴室でのときのように、よっぽど切羽詰まってでもいない限り、厳しいものがある。
思うに、やめたほうがよさそうだ。…下手に無理してこんなことを言ってしまえば、僕はニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべながらこれを言ってしまいそうですらある(そうなれば唆 られるどころか、ドン引き確定だ)。
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