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カナエという少年はその家柄の良さもさることながら、その飛び抜けて美しい容姿と、飛び抜けて優秀な成績からよく目立ち――もはや学校内外問わず、また学年なども関係なしに、さまざまな人から告白されてきた。
それこそ毎日のようにラブレターを手渡され、あるいは下駄箱の中に、毎日のようにそれが入っている。――体育館裏に呼び出されるなんてことも頻繁にあり、校門前で突撃されることもあって、そうしてもちろん、「好きです、付き合ってください」との告白を受ける。
しかしカナエは、誰とも交際する気などなかった。
はじめのほうこそ良心の呵責から呼び出された場所へ行き、そしてきっぱりと断るように努めていた――それがお互いのためだと思っていた――カナエも、あまりに頻繁な呼び出しとなればいよいよ時間の無駄だ、と、呼び出された場所に行くことさえなくなった(そうであっても結局、ラブレターなどで同じ人から告白されるのだ)。
ただ、彼が受けてきたその告白はカナエ曰く、本当に自分のことを好いているが故の告白ではないという。――名家生まれのアルファであるカナエだからこそ、彼ら彼女らは自分と付き合いたいと思っているのだ、と。
『 傍から見れば、俺は完璧な神のように見えるかもしれない。だけど、俺のことを完璧だと思っている人たちは、俺のことをきちんとは見ていないんだ。まるで俺の両親のように。 』
そう…――カナエは傍から見れば、どこまでも完璧な存在のようであった。容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群、家柄も飛び抜けて良く、お金持ちだった。
何に困ることもない。カナエが欲しいものはなんでも、両親からすぐに与えられた。…また、名家生まれのアルファである自分に逆らう人なんか、世界中のどこを探してもいない。…同級生たちはみんな、カナエの前でヘラヘラ笑っているだけだ。自分よりいくらも年上の大人でさえ、それこそ学校の教師でさえも、自分に媚びへつらってくる。
どこまでも自分のことを特別扱いしてくる周り、その特別扱いを共に受けたいからこそ、自分に交際を申し込んでくる人々――カナエはうんざりしていた。
そもそもカナエは、あえて“逆らわない友人”ばかりを、両親に宛てがわれていた。――いや、両親に友人関係さえも管 理 されていたのだ。
しかしカナエの両親は、いつも家に居なかった。
そのかわり、カナエが欲しがったものはなんでも与える両親であった。…それがたとえ物であろうとなかろうと、カナエが望んだものはなんでも与えられ、なんでも彼の手に入った。
――両親の…いや、本 物 の 愛 以 外 は 、なんでもだ。
誰しもの目に完璧に見えるようなカナエ少年は――その実満たされないところのある、とても寂しい少年だった。
そんなカナエが、高校の図書室で出会った美少年…――色白によく映える豊かな黒髪、切れ長の美しい目は薄紫色、ぽってりと厚い唇は妖艶に赤い…小さな顔は少しだけ面長で痩せ型の、儚げな美少年。
――それが、ユメミだった。
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