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ゆく宛もなく二人は走って、校舎から飛び出た。
ただ、カナエには金があった。…なかなか家に帰って来ない両親に、子供のカナエでも好きにしていいクレジットカードだけは渡されていたのだ。――カナエはすぐさまタクシー呼んだ。沈黙しながら二人はタクシーの到着を待ち、やって来たタクシーにそそくさと二人で乗り込んだ。
固く手を繋ぎあったまま、二人はタクシーのなかでも黙り込んでいた。…若い二人が逃げるといっても、なんのプランもなかった。――タクシーは、今夜とりあえず泊まれれば構わないとカナエが指定した、安いビジネスホテルへと向かっていた。
その安いホテルの狭い部屋に着いた二人は、ぎこちなく向かい合った。――ユメミが「逃げちゃったな、僕たち」と笑うと、カナエは「うん」と笑いそうになりながらも笑わない、微妙な顔でぶっきらぼうに答えた。
そのあとカナエは、立ったままユメミと向き合い、また真剣な顔をして彼を見つめた。やっぱり無性に笑いそうであった。変な高揚感があったせいだ。
「きっとユメミは、俺の、“運命のつがい”だと思う。そういう特別な人は、ユメミ以外にいないよ。」
ここまで逃げてこれた開放感からか――どこかハイになっているユメミもまた素直に、「僕もそう思ってたんだ」と、屈託なく笑った。
そしてユメミは少し甘ったれた声で、背の高いカナエに甘えるよう上目遣いに見ながら、こう聞いた。
「僕、カナエくんのつがいになりたい。してくれる?」
カナエは「むしろ嫌がってもユメミを俺のつがいにしてやる」と、あくまでも真剣な顔をして言った。
するとユメミはくすくす笑ったあと、その切れ長の目をとろんとさせる。
「じゃあ…今日つがいにして…。カナエくんのつがいに、今、ここで……」
その甘い声に、カナエはドキッとして目を見開いた。
――もちろん狼化しているわけでもないカナエと、オメガ排卵期を迎えていないユメミでは、たとえ“つがって”も現実にはそのようにならない。
ただカナエは、ユメミの言っている「つがいにして」という言葉の意味が、そ の 意 味 ではないことも、わかっていた。
「でっでも、でもユメミ、俺たち、でも、……」
カナエは勇気が出ないようでもあったし、それと同時に、なにか判然としない罪悪感も覚えていた。――しかし、そんなカナエに切ない顔をしたユメミは、カナエの目を見つめた。ユメミの儚げな表情はとても色っぽく、どこか切実なものを訴えかけてくるようであった。
「お願いカナエくん…僕とエッチして…? ――それとも、カナエくんとエッチがしたいのは、僕だけなのかな…」
カナエはでも、でも、とまだ言って混乱していたが、ユメミの「今日じゃないと駄目なんだ…」という、今にも消え入りそうな声に、なかば覚悟を決めていた。
そこでユメミは、顔を真っ赤にしてカナエに抱き着いた。…彼をキツく抱き締め返したカナエもまた、緊張から険しい顔をして真っ赤になっていた。
「僕の初 め て は、絶対にカナエくんがいい。――僕を抱いてカナエくん…。カナエ…どうかお願い……」
「わ、わかっ……わかった。」
カナエはいよいよ固く覚悟を決めて、奮起した――。
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