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               そんな自分の理想と、自分の現実が乖離して辛くなったとき――そのときだけ――僕はベッドで目を瞑り、頭の中でそっと、あの『夢見の恋人』の表紙を開いた。    もしかすると僕は、物語の中の、紙の中にしか存在しない人物――カナエに恋をしてしまった、のかもしれない。  そう言ってもあるいは、過言ではないのかもしれない。…ただそうだとしたら、()()()()()()()()、カナエに恋をしていたのだろう。  つまり、もちろんユメミからカナエを取り上げたい、というんじゃないのだ。カナエが好きなのはユメミだけであり、ユメミが好きなのもカナエだけだ。    カナエとユメミだからこそ、素敵なカップルなのだ。  この二人だから応援したい。だからこそいいんだ。    性奴隷のユンファ…僕じゃないからこそ、よかった。    本当に僕を助けてくれる人なんかいないし、まさか、誰かに助けを求めるつもりもなかった。…でも、僕はたまにでいいから、ユメミになりたかった。    ユメミになって――カナエに助けてほしかった。  カナエのような誰かに拐ってほしかった。――カナエのような誰かに、愛されたかった。  僕はその妄想をするとき、ツキシタ・ヤガキ・ユンファではなくなった。――ナカジョウ・ヤガキ・ユメミになった。…妄想の中でだけ僕は、ユメミになったのだ。   『一緒に逃げよう、とにかく二人で逃げるんだ、二人でどこかに逃げるんだよ!』   『……、うん……うん、カナエくん』    僕の手を掴んで走り出すカナエ――馬鹿げた夢だ。  僕なんかがユメミになれるはずもないのだ。…僕はあんなに綺麗で、美しい少年ではない。どれほど努力したって、僕は身も心もユメミにはなれない。現実など残酷なもので、僕は本当は、不細工で薄汚い性奴隷だ。   『助けてくれて、本当にありがとう……』   『はは、絶対助けるっていったろ、俺は。』  そうわかってはいても、僕はユメミになれた妄想をした。――こうなってから、カナエに愛してもらえる妄想をして、僕は自分を慰めていた。    カナエに抱き締めてもらえる夢を見た。  カナエの青い瞳に見つめてもらえる夢を見た。  カナエとダンスを踊り、笑い合う夢を見た。  カナエの唇が、自分の唇に触れる夢を、見ていた。      僕はユメミだ…――性奴隷のユンファじゃない。      僕はユメミだ。  カナエにこんなにも愛してもらえる、ユメミなんだ。    君に、優しいキスをしてもらえる。  愛されて、そっと優しく愛撫をしてもらえる。「好きだよ、大好きだよ、愛しているよ」と甘く囁いてもらえる。    僕はユメミなんだ。――僕は性奴隷で、おもちゃで、肉便器で、家畜の…ユンファなんかじゃない。       『…ユメミ…脱がしてもいい…?』   『……う、うん…』    君が僕の服を優しく脱がす。  現れた胸に、君は少しだけそこに見入っている。   『綺麗だよ、ユメミの体…』   『…………』    綺麗…――綺麗じゃ、ない。  とても綺麗な体ではないけど、…嬉しい。    君がユメミの胸を触ると…――僕の手も自分の胸に、優しく触れた。…奴隷のニップルピアスなんかない。今はない。綺麗な胸だ。初めて好きな人に触ってもらえた、初々しい胸しか、今は、ここにない。    君が、僕にキスをしてくれる…――僕の指が、僕の唇を撫でる。   『…ファースト、キス……』   『…え? ユメミ、初めてキスしたの…? はは、じゃあ俺が、ユメミのファーストキスの…相手?』   『……うん、そう…』    僕が頷くと、君はとても嬉しそうに笑ってくれた。   『…うわ嬉しいな、…ユメミのファーストキスの相手になれて、俺、ほんと嬉しい、…ありがとう、ユメミ』   『…………』    ごめん、ね…――嘘、なんだ。  違う…僕は今、誰とでもキスをするような淫乱じゃない。無料の唇なんかじゃなくて、大事な唇。君のためだけにある唇。君とだけキスができる、幸せな唇だ。…男性器を舐めたりしゃぶったり、精液を飲んだりなんかしていない。一度だってそんな経験はない。   『愛してるよ、ユメミ……』   『……う、うん…』    君は、僕に心からの愛を囁いてくれる。  君は、お前は惨めな性奴隷だなんて言わない。君は僕に酷いことを何も言わないし、そういう言葉を言わせたりもしない。   『…可愛い…ユメミ、本当に可愛いな…』   『…………』    可愛いところなんて、可愛げのない僕には、一つもないんだけれど。   『…本当に綺麗だよ…』   『…………』    薄汚くて、とても綺麗じゃ、ないんだけれど。   『…美しいよ、ユメミ…本当に、俺にとっては世界で一番、ユメミが美しいんだ』   『……、ふふ……』    美しくなんかない、本当は不細工なんだ。  だけど、…凄く嬉しい。    君はただ、こうやって僕を褒めてくれるだけだ。   『……ユメミに、触っていい…?』   『…うん…さ、触って…?』    僕の膨らんだソコを、君が撫でてくれる。   『……っ』 『ここ、気持ちいい…?』    君は、優しく気遣って僕に聞きながら…ゆっくり、じっくりとソコを愛撫してくれる。…メス奴隷のいらない付属品なんて、君は少しも思わないでくれている。   『うん、きも、ちいい…』   『ココもユメミの大事なところだから…たくさん触ってあげるね』   『う、うん…ありがとう…』    君は、こんなところまで愛してくれるんだね。――どうせ穴に挿れるだけなのに…僕にはそんな必要、ないのに。         

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