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ただ、そのようにして僕とユメミの境遇はあまり似てはいないが――せいぜい養子ということばかりじゃないだろうか――、文化祭。図書室。窓辺。夕暮れ。舞踏会。
そして、見知らぬ金髪らしい少年…――。
「…………」
そういえば…――。
『夢見の恋人』の最後のシーンで、ユメミとカナエはこのような、ひと際印象的な会話を交わすだろう――。
“「…僕、夢を見ているのかな」”
“「いいや、これは夢なんかじゃない。」”
このセリフ…偶然だろうか。
先ほどの脱衣場での、僕とソンジュさんの会話…――。
“「…僕は夢を、見ているのか……」”
“「……いいや。これは夢なんかじゃない。」”
「……、…」
正直僕はあのとき、特にユメミの真似をしたわけではなかった。――本当に夢を見ているかような心地がしたのだ。…ただ『夢見の恋人』は、もちろん僕が何度も読み返して読み込んでいる作品ではあるし、近頃の僕は、あえて自分の境遇とは真逆の、夢のように綺麗すぎるあ の よ う な 妄 想 を、慰めともしてきている。
となると無意識に僕も、ユメミ的なセリフを言ってしまった可能性はあるが…とはいえ本当に、あのときの僕は別に、ユメミになりきっていたわけではない。
だが、そうして僕のほうはともかくとしても――ソンジュさんに至っては、一言一句カナエのそ れ と違わないセリフである。
「…………」
いや、彼は何気なくも「“夢見の恋人”は、俺が世界で一番愛している作品なんですよ。」なんて話をしていた。
ならばあるいは、彼もまた『夢見の恋人』に影響されてあのような――なんならソンジュさんは、僕なんかよりよほど記憶力もよい(映像記憶できる)人であるから、ふっと思い出して、僕も好きな『夢見の恋人』のセリフを引用し、ある意味では僕を喜ばせようとしたのかもしれない。
そうとも考えられるし、本当にソンジュさんがpine先生であるような気もする。――どうも決め手には欠けるというか、…いや。
何も別に、本人に直接聞いてみればいいだけのことじゃないか。――もちろん恥ずかしいように、「ユメミのモデルってもしかして僕ですか?」なんて聞くわけではなく、「ソンジュさんってpine先生だったりしますか」というように、軽く、何気なく、冗談っぽく、はっきりソンジュさんに聞けばいいだけのことだろう。
まあ、たとえソンジュさんがpine先生じゃなかったとしても、これだけpine先生の作品を――『夢見の恋人』以外――すべて取り揃えているあたり、彼としても別に、それほどの憧れの人に間違われてしまうというのはむしろ、少なくとも悪い気はしないはずだ。
それでもし本当に、pine先生の正体がソンジュさんだった場合もそれはそれである。
なんにしたって、僕が一人でぐるぐる推理しているよりは手っ取り早く真相を知ることができるのだし、――いや…本当にソンジュさんがpine先生だったら、どうしよう。
「……、…」
すると僕は要するに、敬愛するpine先生に求婚され…いや、まあどこまで本気なのかは知らないが――僕、ほ、本当に…pine先生と結婚、なんて…そんなことになったら、本当に…どうしたらいいんだ?
いや、まさか僕はpine先生と恋人になりたいだ結婚したいだ、これまでにそんなことを考えたことなどない。…というかそんなこと考えられるはずがないのだ、神様くらい崇拝レベルで敬愛しているpine先生に対して、そんな俗っぽい欲求をいだくほうがどうかしているだろう。
「…………」
まあなんにしたって結論――ご本人に直接聞いてみるのが一番いいだろう。
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