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「…………」
あ、そうだった。…小説家ということで思い出した。
僕はソンジュさんに聞いてみようと思っていたんだった。――もしやソンジュさんは、pine先生なんじゃないか、ということを。
僕は両手で包み持つココア…いや、ホットチョコレートを見下ろしつつ、ちょうど今間合いもあるしと――しかし、僕が口を開く前にソンジュさんが。
「ユンファさんは、pineがお好きなんですか?」
「……あ、はい好きです…というか、大好きです。大ファン……」
思わず笑顔でソンジュさんに振り向いて頷いた僕は、またさっと顔を伏せ、口をつくんだ。
つまり、ここまで言っておいて今更なんだが、僕はそもそも、そんなことをpine先生ご本人に言っているかもしれないという可能性に、口をつぐんだのだ(だとしたら何か照れてしまうものがある)。
「はは、そうですか、大ファン。…じゃあpineの作品の中では、何がお好きなんです?」
「……あの…、あ…ゆ、“夢見の恋人”が、一番…」
僕はそわそわとしながら、あまり大きくは出られないで、ココア…じゃない、ホットチョコレートを見下ろしている。
「なるほど…確かにユメミとユンファさんって、な ぜ か 不 思 議 と よく似ていらっしゃいますよね。」
「……、…そう…言われますね、よく…なぜか……」
いや。
何か回りくどいような気もするが、逆にこの口振りが本当なら、ソンジュさんはpine先生ではないのかもしれない。――ソンジュさんは、ふふ…とやさしく笑い、僕の腰から少しだけ手を上へ、あばらへと上らせる。…これだけでぞくぞくしてしまう僕は、ふいと顔を横へ背けた。
「…俺も本当に、何度も読み返しました。大好きな作品なものですから……」
「…そうですか、僕もです…本当に素敵な作品ですよね…――あっ…そ、そうだソンジュさん、…」
ただ顔を背けたことで気が大きくなった僕は、ここでちょっと駆け引きを試みてみようかと思った。…とはいえ、自分が駆け引きなんか上手くない不器用なやつだとはよくよく理解しているため、僕は彼の目を見られないで、ホットチョコレートを見下ろした(下手に顔を横へ向けているのも不自然だろうからだ)。
「…あの、ソンジュさんもpine先生がお好きなんですか? “夢見の恋人”以外は、全部あそこにありましたもんね」
ドキドキしている。
どちらかというとこのドキドキは、絶え間ない僕の好奇心が故だろうが。
するとソンジュさんはもったいぶることもなく、割と普通に。
「そうですね。まあ好きというよりは、個人的な趣味が合うので、俺にとっては世界で一番面白い作品を書く作家…という感じかな…?」
「…あぁ…僕もそう思います。確かに……」
「ええ。俺 も 見 習 い た い ところです。」
「…なるほど…、……」
見習いたい。
…と、いうことは――やっぱり、ソンジュさんはpine先生ではない…ということか。…まさか自分のことで「見習いたい人だ」とは、誰も言わないものだろう。
なかば僕は落胆している。どこかでソンジュさんがpine先生であったらいいな、という思いがやはり、あったのかもしれない。――ただもうなかばは、やっぱりな、そんな奇跡あるわけないよな、と納得もしているのだ。
するとソンジュさん――僕の腰をする…する、と上下に撫でると、そこをぐっと抱き寄せ、…楽しげな笑みを、隣の僕へずいっと寄せてきた。
「はは…聞きたいことがあるのなら、どうぞ聞いてください。…俺が思うに、もしやユンファさんは、俺 の こ と を p i n e な ん じ ゃ な い か とお考えであったり…」
「あ…あのっは、はい、あ…そ、ソンジュさんって…pine先生、だったりして、なんて……」
僕は、抱き寄せられた腰になす術無く背中を反らせつつも、顔をさっとそむけ、慌てながらも聞いてみた。
恐る恐る横目で窺ったソンジュさんは、目を丸くして笑い。
「いいえ? ふふふ……」
「……、あ、やっぱり…そうですか……」
違った、らしい。
なんだ、ただの勘違いか。
あれだけ真剣に考察しておいて恥ずかしいが、つまり何かとた だ の 偶 然 だったようである。
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