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                「僕、僕本当に、お兄さんのこと襲おうとなんかしてません、…」    ただ、オメガ排卵期に関してはそう無知でも、「襲おうとしてるのか」というワードの意味は知っていたため、違う違うとその誤解を解こうと慌てて、俺は首を横に振った。   「…はぁ……」    するとユンファさんは呆れたため息を吐き、「じゃあさ…」とげんなりとした目を伏せ――その伏し目がまた、切れ長の目では本当に美しかった。すると彼の瞳は深く濃い紫となった。   「君ね、なんでそういう…自分はアルファだとか言うんだ? ほんっと意味がわからないんだけど、君…」   「…あの、すみません、…癖で、つい……」    いや、白状すれば癖なんかではなかった。――彼に責められたために、俺は子供っぽい自分の正当化のためだけに、咄嗟初恋の人に許しを乞うて、ただそう言い訳をしただけだ。まさか癖になんかなるはずがない。俺は生まれたときから、自分がアルファであることを知っている人間に囲まれて育ってきたのである。――となれば当然だが、「自分はアルファなんです」なんて言う機会は、これまで俺にほとんどなかった。  まあ、むしろこうして反射的に取り繕ってまでも、誰かに好かれたいと思ったこともまた初めてのことではあったが、それにしたって我ながらニヤついた。自分でもあんまりに拙劣(せつれつ)な言い訳だったと思ったからである。   「…は、癖? なんだそれ、変な癖だな…」    ただ、俺のお粗末な言い訳にふっと笑って、俺の目をちらりと見たユンファさんは、――呆れたように笑った。   「…なんだよ癖って…――あぁ〜わかった。…」    やはり彼もまた拙劣だと思ったらしい。ユンファさんは、ふぅ、と鼻からため息をつき――むしろ俺のあんまりな言い訳に和んだ様子で、俺のことを子供として扱う優しい目をして、微笑んだ。             「…君ってきっと、不器用な子なんだ。――つまり本当は君、ただ僕と友達になりたかったってだけなんだろ?」         

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