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 ※申し訳ありません、初期の前説で「モブユンの直接的な行為は無し」的なことをほざき抜かしておりましたが、実はこの「夢と目合う」があまりにも長すぎてですね、僕自身があらゆるモブユンシーンをすっかりぽっかり宇宙のかなたへ忘却ぶちかましてしまっておりました……(土下座)。  で、これまでこの作品をお読みくださっている方々はご存知のこととは思いますが、(今回ふくめ)モブユンシーンは大体胸糞要素強めです。もちろんいつもどおりモブユン濡れ場シーンには「※モブユン」をつけますので、苦手な場合はご無理をされないよう、お気を付けてお読みくださいませ…!※         ×××            俺はまた嘘をついたのだ。        俺はユンファさんの左耳についているその十字架によって――ひいては風俗店『DONKEY』の公式サイトに掲載されている、彼の宣材写真に映っていたそれによって――さも彼の信教を察した風のことを言った。    しかしそれは真実ではない。  俺はユンファさんの左耳についている十字架のピアス、それが宣材写真に映っていたために、彼の信じている神を知った――というわけではない。    それは嘘だ。  それこそが俺のついた嘘である。    そもそもこのヤマトという国においては、十字架というアイテムそれそのものが、それを身に着けている人の信教の典拠(てんきょ)になるか否かでいうと、その実それは微妙なところである。この国では軽々十字架とクリスチャンをイコールしてはおぼつかない。  それが十字架を身に着けることをもって己がクリスチャンであることのアピールにしている他国の者ならまだしも、「西洋文化」としてキリスト教のならわしが普遍化したこの国では、しばしばそれがファッショナブルなアイテムとしても扱われてきた。    つまりこのヤマトを母国とする人々の中には、その十字架というアイテムを、単なるファッションの一部として身に着けている人もわりに少なくはない、ということである。    またあの宣材写真でユンファさんは、まず私服ではないだろう扇情的なボンテージコートを着用していただろう。――ともなれば、その左耳についていた十字架のピアスも大方は彼の私物ではないと、少なくとも彼の私物ではない可能性のほうが高いと、そう考えるほうがむしろ尋常ではないか。  それこそその十字架のピアスもまた、宣材写真の撮影に際して店側が用意した衣装のうちの一つ――ボンテージコートに合わせてコーディネートされた、借り物のアクセサリーの一つ――であろう、――などとね。    したがって――十字架のピアスくらいのものでユンファさんの信教の断定をするなどというのは、(少なくともこのヤマトでは)いささか浅慮的な愚かしい判断といえる。    そしてそのように考えている俺もまた、さすがに十字架というモチーフのみで、ユンファさんがクリスチャンであると断定したわけではない。  それをもっと細かくいえば、俺がユンファさんの信じている神を知り得たきっかけは、そしてその十字架が彼の私物であると断定したきっかけは、あの宣材写真の、彼の左耳についていた十字架のピアス――ではない。    それはもっと推測的ではない、それこそ典拠ともなる確かな情報源によることだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。――そして、それであるからこそ俺は、この度ああした嘘をつきざるを得なかった。    俺は先だって()()()()()()()を視聴した。  そして、その動画の中で繰り広げられていた酷く()()()()()()によって、俺はユンファさんの信仰する神を知り得たのである。  なおそれというのは、俺が雇った探偵が撮ってきてくれた、数ある動画のうちの一本である。    俺はかねてより月下(ツキシタ)夜伽(ヤガキ)曇華(ユンファ)という人のリサーチを、あらゆる界隈の事情に通暁(つうぎょう)したベテラン探偵に依頼していた。――もちろん九条ヲク家の俺が依頼するに易い探偵である以上、その人は界隈においても殊に信用に足る探偵である。    そしてその動画によると、近頃のユンファさんは夜毎(よごと)、耳から外したその十字架のピアスを握り込み、信仰する神に敬虔なる祈りを捧げているのだという――。    しかし、俺の雇った探偵が撮ってきたその決定的な動画――ユンファさんの左耳の十字架に、()()()()()()()()()()が込められていることを明らかにした動画――の撮影場所は、その清浄で神聖な話題を繰り広げるには全く似つかわしくない、非常に残念ながら()()()()、あのケグリが営むハプニングバー『AWAit』である。  ……しかも――その映像の中でユンファさんは、酷く侮辱的な陵辱を受けていたのだった。        

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