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61※モブユン
その映像は、ケグリの店に覆面調査を目的として入った探偵が、隠しカメラで撮影してきてくれたものだった。なお言うまでもないことだが、もちろんその覆面調査を依頼したのはこの俺であるし、探偵が撮ってきた月下 ・夜伽 ・曇華 という人にまつわる動画というのはその実、今回の件に関わるそれ一本に留まらない。すなわち数百あるうちの一本がそれということである。
ちなみになぜ探偵が隠しカメラをもって撮影をしてきたか。その理由は、彼を雇っているのが九条ヲク家の俺であるから、そのことが万が一ケグリに露見しては都合が悪いから、……そうではない。
確かにそうなってしまえば非常に問題ではあるが、そもそも俺が安心して頼めるレベルの探偵が、万に一つもそのようなヘマをするはずがない。
存外もっとシンプルな理由だ。――ケグリの店は『KAWA's』にしろ『AWAit』にしろ、基本的には店 内 撮 影 禁 止 なんだそうである。
とはいえ、各個人から撮影許可が取れているとき(例えばイベント時)や、ケグリたちノダガワ(経営側の人間)がユンファさんを店内で陵辱している動画に関しては、アイツら金稼ぎのために、『AWAit』公式サイトに有料コンテンツとしてアップしているのだ。――つまり店内撮影もノダガワの奴らならばOKということ。
だが、もちろん一人の客としてその店に潜入した探偵はご多分にもれず、店内撮影を禁じられている立場であった。それで探偵は腕時計に小型の隠しカメラを仕込んで、あの『AWAit』に潜入したわけだ。
……しかし小型の隠しカメラとはいうが、その性能はなかなか侮 れないものである。
昨今はスマホカメラの質も飛躍的に向上しているように思うが、その小型カメラもまたプロの探偵が愛用しているだけあって、俺が受け取ったそれら映像の画質は驚くほどに良かった。
まあさすがにつ ぶ さ に とまでは言えないにしろ、それこそユンファさんの表情の変化さえも確認できたほど、それは俺が思っていたよりも鮮明な映像であったのである。
さて、その数時間にもおよぶ映像のある時点――撮影された場所はあのケグリの店、会員制ハプニングバー『AWAit』だ。
店内は薄暗い。しかし、薄墨の影におおわれた店内のそちこちを閃光のようにまばゆい、鮮やかな多色の光のかけらが悪戯をするような速度で撫でてはすっと消えてゆく、若草色にイエローストライプの壁に、コーヒーブラウンの木製のカウンターテーブルに、そのテーブル前に等間隔に置かれた丸椅子の赤茶の革張り座面に、――そのグロテスクなほど鮮烈な多色の光は、おそらく夜間となりその店がハプニングバー『AWAit』となる際にのみ灯る、ディスコライト(ミラーボール)からのものと思われる。
そして店内は非常にうるさい。
狭い店内が爆発しそうに思われるほど大音量でかけられているクラブミュージックがもっともうるさいが、乱痴気騒 ぎの声も聞こえてくる。それなりに客がいるようである。
酔った男の大声の野次、女の甲高い喘ぎ声、ヒソヒソと交わされるいやらしい耳打ちの声、笑い声と泣き声と鳴き声、…まるで百枚の紙を百人おのおのが一枚ずつ好き勝手積んでできた粗末なバベルの塔のような、大きさも向けられた角度も何もかもがバラバラの不調和、整然性も遠慮も何もない混沌、混雑、混迷、……よっぽど動物園の猿のほうが礼儀正しく静かにしているよ。
つまり兎 小屋にぎゅうぎゅうに詰め込まれた野ザル共、お山の大将たるボスザルケグリは、その兎小屋のマスター様だということ。ご立派。
そのような阿鼻叫喚地獄に相応しい騒音の中でも、特によく聞こえるのは、甲高い女の喘ぎ声である。
それは声質的な聞き取りやすさもあろうが、その女はなかばヤケクソじみた腹からの声であっあっあと規則的に喘ぎながら、「この卑 しい性奴隷に皆さまのおちんぽを恵んでください」といったような、マゾヒスティックなセリフをしばしば口にしている。――どうやらその女は客の一人が連れてきた性奴隷らしい。そして、その女の性奴隷を数人の男が囲んでいるようである。画面外のことだが、おそらく乱交でもしているのだろう。
さて……あやしいディスコライトの鮮烈な多色のかけらが星のようにギラギラと巡る中、カウンター席に着いている探偵のカメラは真横から、いわゆる立ちバックで客の男に犯されているユンファさんの左半身をとらえていた。
ただし探偵のカメラ、探偵は、ユンファさんのその真横から見るとほぼ「くの字」といえる前のめりの姿を、バーカウンター前に等間隔に置かれている丸椅子二つ隔てた距離から撮っている。
そしてカウンター前の丸椅子と丸椅子の間、上半身をほとんど水平になるまで深く倒しているユンファさんは、そのお尻を後ろにいる男に差し出すような形で突き出している。また彼は、コーヒーブラウンの木製のカウンターテーブルの上に、その顎の先をのせていた。
なおのせているのは顎の先だけだ。彼の手はそこにない。もっとも、今の彼が自分の体を支えるには、そうしてカウンターに顎を置くくらいしか方法がないのである。
このときユンファさんは、両手を背中、厳密にいえばその人の腰の裏あたりで拘束されていた。
まずこの日のユンファさんの衣装から見ていこう。
ユンファさんはその輝くように生白い痩躯 に黒革の、コルセット型のボンテージを着せられていた。まあボンテージとはいえそれはほとんど、彼の細い腰を覆うコルセット部分のみというようなデザインである。その蒼白い肌と黒革の明度差がいやに艶 めかしい。
そしてその白い胸板から垂れ下がる銀のリングピアスは、彼がうしろから男に突かれるたびにゆらゆらと揺れている。――つまり腰ばかりにしか面積がないそのコルセット型ボンテージは、ユンファさんの白い胸板部分もまたすっかり切り抜かれたデザインなのである。
またそのコルセットは、ガーターベルトと一体型のものだ。そのコルセットから前後左右に伸びる黒紐は彼の太ももの中央を通り、その人が履いているロングブーツ――彼の細長い太ももの中腹までを覆う、黒革のサイハイブーツ(ロングブーツ)の縁 に繋がっている。……なおこれは余談だが、俺がこれで特に扇情的であると見たのは、ユンファさんのそこばかり豊かなお尻の上を通っている黒紐の食い込み、その白い肉の豊かさとやわらかさを示す、その紐の食い込み具合である。
またこの場面の前にチラリと一瞬ばかり映った彼の足首には、拘束棒――両足首の内側に目測六十センチほどの銀のバーが繋がっており、そのバーの範囲ぶん足を大きく開くことを物理的に強制するSM用の拘束具――が取り付けられていた。
なお一時停止して確認してみたところ、その拘束棒は、ユンファさんが履いているブーツそのものに取り付けられているかもしれない。そのブーツの足首の内側の両方に取り付けられた小さな銀の留金、それにつながる二センチないほどの短い銀の鎖のようなものが見て取れ、そして、その鎖に銀のバーが付いているように見えたのだ。
さらに、ユンファさんのほぼ水平に倒れた背中にのる彼の両腕には、二の腕も肩ちかくまでを覆う、黒革の手袋型のアームカバーが嵌 められていた。――このアームカバーは、上から下までぎっしりとベルトが幾重にも連なって巻かれているデザインのもので、それがまたいかにも厳 重 な 拘 束 具 の重苦しい印象を見る者に与えるようだ。
……いや、そ の 通 り なのである。どうやらこのアームカバー自体が手枷、すなわち拘束具の役割を兼ね備えているようだった。
ユンファさんの黒革をはめた両手は手の甲を上に、アナルに挿入されている赤いバイブの尻を彼自らその両手で押さえているのだが、その両手首は彼の腰の裏あたりで拘束されている――ようには見えるが、彼は別途、手錠や手枷を嵌められているようではない。
しかしユンファさんがうしろから揺さぶられるたび、ガチ、カチ、カチ、とわずか金属的な硬質な音が立つ。そしてその人の背中にのっている手首は、繋がれた短い鎖が揺らぐ程度の僅少な揺れしか起こらない。
つまりユンファさんは確かにその両手を拘束されている。
そこで俺が推測するに、ユンファさんが着用しているそのコルセットの腰の裏あたりには、何かしら拘束用のカラビナか何かが取り付けられている。――そして、アームカバー側にも取り付けられている短い鎖とその留め具を繋ぐことで、こうして着用者の両手を腰の裏で手枷よろしく拘束できる、というような作りの衣装なのだと思われる。
……となれば、おそらくそのコルセット型ボンテージとアームカバーは、いかにもSM用のセットアップ衣装なのであろう。――なんならブーツそのものに拘束棒の取り付けられているらしいサイハイブーツ(ロングブーツ)もまたセットアップ、黒革で統一されたコルセット型ボンテージ、アームカバー、サイハイブーツと、それらは拘束具を兼ね備えた三点ものセットアップなのかもしれない。
……とまれかくまれ――つまりこのときユンファさんは、その両手の自由を奪われ、その拘束棒によって足を大きく開くことを強いられ、それによって人目に性器をあらわに晒すことを強いられ、そして、その場所を男に差し出すことをも強いられている状態だった。
また、そうしたユンファさんがカウンターテーブルに顎をのせているのは、両手が背中で拘束されているが故の、むしろそうするしか致し方ない、せめてもの「支え」だったというわけだ。
そうして手足を拘束され、男に犯されることを甘受する他にないユンファさんは、もちろんというべきか、下着は着けていないようだ。
彼のお尻に男が恥骨を力任せに打ち付けるたび、パンパンと平手で肌を打つような音がたびたび鳴っている。――またその人の腿 の影でやわらかく揺らめく影が見え、彼が両手で押さえているアナルバイブの赤い尻部分が、彼の白い尻たぶから少しはみ出てうねうねとくねっては、男の丸く出た腹に指の背を押されて結果押し戻されるバイブに、ユンファさんは同時に前後どちらもを犯されているようだった。
更にもちろん、…というべきではないが、このときもユンファさんのその長めの美しい首には、やはり金の南京錠がついた赤い革の首輪が巻かれていた。しかもこのときその首輪には、赤の太い紐のリードが取り付けられていたのである。
今はそのリードの先を握っている者はいないが、彼を乱暴に犯す男の動きに合わせ、その赤い紐のリードは、彼の背中の上を這う蛇のようにウネウネとのたうっている。――時折男たちの残酷な気まぐれで、まるで犬の躾のように、それを後ろからグッと強く引かれることもあった。すると当然ユンファさんは苦しげに呻く。首輪に喉の前面を圧迫され、呼吸もままならず、顔を赤らめながら許しを乞う彼を、男たちは折々可笑 しそうに嗤 った。
そうして手足を拘束され、首輪にリードまで着けられた状態のユンファさんは今、カウンターテーブルに顎の先をのせ、その背中がほとんど水平になるまで深く倒して、そのお尻を、後ろにいる男に差し出すよう突き出している。――そして彼を犯している客の男は、彼の細い腰を掴んで浅ましく無遠慮に腰を振っていた。
男は目元を隠すばかりの黒い仮面を着けている。その黒ずんだ唇は紙のように薄いが、横幅は裂けたように広い。くすんだ浅黒い肌の小太り、腹がまるく出たその体型から察するにおよそ中年か。まあケグリと同年代だろう。やけに細い下半身は裸だが、丸く肥えた上半身には白いカッターシャツを着て、襟元をゆるめ、袖を肘までまくっている。
そして、薄暗い店内に白く浮かび上がるようなユンファさんの上半身は、後ろから彼のことを犯す男の前後する揺れに合わせ、極小さく前後にズレるように、テーブルに着いた彼の顎の皮膚が小さく擦れるようにだけ揺れ、揺れる。――ディスコライトが放つ、そのあやしい多色のギラギラとした光のかけらまで、彼のその背中や肩、濡れた黒髪をいやらしく舐 っていた。
ズンズンと腹の底に地鳴りを起こすクラブミュージックの低音――。
「んあぁっ♡ あんっ♡ あっ♡ あ、♡ あ、♡ あ、♡」
女の性奴隷がどこかであられもなく喘いでいる。
「…は……は…、…は……」
およそ女と同様、ガクガクと男に揺さぶられては息を乱しているユンファさんだが、彼は一切喘がない。――彼の半開きのふくよかな唇は赤い。彼のその唇には赤い血が滲んでいるのである。
だがどれほど激しく男に攻め入られても、もはやユンファさんはその黒眉をひくりともさせず、ほとんどの瞬間を虚ろな伏し目の横顔でやり過ごしていた。――あまりにも美しい横顔であるが、あまりにも虚ろで、さながら端整なラブドールという風にしか見えない。
このときユンファさんがその虚ろな瞳で見ていたものは、カウンターテーブルの木目である。
歪んだ視界に映るぐにゃりと形の歪んだその目、死に絶えた木の、皮を剥がれて切断された肉の側面に浮かんだおそろしい目、呪われたような目の合わぬ目、死んだ木の目を見つめるその諦観の瞳は、それによって一時しのぎの慰めをかすかに得ている。
「…は…、…は……、…は………」
その伏し目はいう。…今死ねば――今自分を殺せば――少しばかりは楽になる……。
されるがままを許す他ないユンファさんのその横顔は、あるいは全てを諦めた獣――それでいてなお冴えた美しさをたたえたままの、銀色の被毛をもつ美しい銀狼 の横顔でもあった。
欲深な人間が仕掛けた罠に足首を噛まれた銀色の狼、その足首からは絶えず赤い血が痛々しく流れ、絶えず狼のその美しい銀色の肉体に、銀色の精神に苦痛を与えていた。しかしこの銀狼はもう既に悟っている。もはや足掻 いたところで傷が広がるだけだと、もはや足枷を外そうと抵抗するだけ無駄だと、それが己を捕らえた人間にバレれば、今度こそ自分は致命傷を負わせられるかもしれない、と。
「……は…、は、…………」
このまま…されるがまま…死を受け入れよう――。
ユンファさんのその虚ろな横顔は、死期を悟っている美しい獣――というよりか、死 期 を 悟 り た い 獣 の、その生への諦観と、死への服従を決め込んだ横顔である。
しかしユンファさんのその無反応は、彼をいたぶり犯している男にとっては面白くなかった。
はぁーっと、わざわざユンファさんに聞こえるように大仰なため息をついた男に、彼はビクンッと怯えた。ついで男はユンファさんのその後ろ髪を鷲掴み、まるで幼児が玩具 をテーブルか何かに叩きつけるような荒々しさで、ガクガクとその人の大きく頭を揺さぶる。
「ねぇつまんないんだけど。…今日はあんなに可愛い子がいるのに、わ ざ わ ざ ユ ン フ ァ く ん を 使 っ て あ げ て る んだから、もっとサービスしてくれないと」
「は…ッ、ご、ごめんなさ…ッ、ク、…〜〜ッ!♡」
高慢極まりないセリフにも詫びようとしたユンファさんはにわかに男に両肩を掴まれ、後ろに引かれながらバスバスと激しく奥へ攻め入られる。
「あっ♡ あっ♡ あっ♡ あんっ♡ あんっ♡ あんっ♡」
しかし、鮮明に聞こえてくるこの嬌声はユンファさんのものではない。
他の場所で犯されている女の性奴隷のものである。
むしろこのときのユンファさんは、爆音でかけられているクラブミュージック、馬鹿馬鹿しい乱痴気騒ぎの中でも――。
「……は…っ、……ッ、…ッ、…ッ、…ッ」
必死に声を殺していたのである。
叫ぶような大声で喘ぎでもしない限り――彼の側にいるのが聴覚のずば抜けて良いアルファ属でもない限り――この下品な喧騒満ち満ちた環境では、およそその嬌声は誰に聞こえるわけでもないはずだ。
だのに、彼は血がにじむほどその唇を必死に噛み締め、思わずあっとあがりそうになる声を死にものぐるいで押しとどめていた。
「はぁあぁっ♡ もっとおちんぽ下さい、もっと奥突いてぇぇ!♡♡」
「…うわーなんて可愛い声だ、…ねえ?」
ユンファさんを犯す男がニヤつきながら前のめり、彼の耳元でそう囁きながら、彼の半開きになった赤い唇に人差し指と中指を突っ込む。これは嫌味である。
おそらく女の性奴隷に悪気はないが、このとき彼女はあんあんと大きな甲高い声で喘ぎ続けていた。
「はい…」と無気力な声で肯定したユンファさんのその横顔はとろんとした伏し目がち、あまりにも端正な美しい横顔だが、あまりにも全てを諦めた横顔である。彼は媚びるように男の肥えた指に吸い付いた。
男はわざとらしく背後に顔で振り返る。
「…いいなぁ、あ の 子 は 顔もすごく可愛いし…おっぱいも大きくて、抱き心地も良さそうなのに……」
そして男は、心にもない「それに比べて」という目をユンファさんに向けた。彼は横目に男と目が合うと、強 いて笑みを浮かべた。
「……ぶ、ブスで、ごめんなさい…、図体ばっかり無駄にデカい貧相な体で、抱き心地が悪くて、ごめ、ごめんなさい…――ぼ、僕なんかにおちんぽを挿れてくださり、…ぁ、ありがとうございます……」
「…ははは、ちゃんと“ごめんなさい”が出来たご褒美あげよう。……」
「……ぁ、ありが…ッ」
――「ご褒美」?
無理にユンファさんの顔を振り向かせ、その人の唇を貪る男は、ニヤニヤと満足そうだ。――ユンファさんはなかば安堵したように目を瞑り、差し込まれた男の舌に舌を絡めているらしい。彼は男の憤怒を免れたことに安堵しているのである。
何がご褒美だ――?
薄汚い、醜い中年男がしてくるキスの、どこがご褒美になるというのだろうか?
罰ゲーム、いや――拷問の間違いだろう。
ネチネチとしたキモいキスもほどほどに、男はユンファさんの顔の近くで、その人の美しい“タンザナイトの瞳”を――身の程知らずにも――見つめているらしい。
「……はぁ、あんなに可愛い声を聞いたら興奮しちゃうなぁ。ユンファくんも興奮しちゃう?」
「…はい…、……ッ!」
ユンファさんはとろんとした虚ろな瞳で男を見つめながら、媚びるような甘い吐息ごと「はい」と答えたすぐあと、にわかに眉をぎゅっと顰めた。――男に乳首を思い切り抓 られたのである。
「ユンファくんもあれっくらい思い切り喘ぎたいときとかないの?」
「……ぃ、いえ…」
そして「いいえ」と奥を突かれる衝撃に詰まりながら答えるユンファさんは、また無理に笑った。
「嘘だぁ。ふっ…ほら、君も喘ぎたいなら思いっきり喘いでいいんだよ?」
と男は後ろに引き、ユンファさんのくの字に曲がった股関節に手を引っ掛け、パンパンとそのお尻を殴るような勢いで腰を振り始めた。彼は顔を前向きに正してぎゅっと目を瞑り、眉を顰め、――その唇にばかり媚びた笑みを浮かべる。
「…は…ッぃ、いえ、…ッ――ぼっ僕の声は、…人様を萎えさせるだけの、…っ“変な声”、ですから、……」
ここで「あああぁ!♡♡ もうイく、♡ イくっイきます、♡ もうイきます!♡♡」と、ユンファさんと同時に犯されているらしい女の、泣き叫ぶような金切り声が聞こえてきた――しかし、
「……は、……ッ、……ッは…――!」
対してユンファさんは奥を突かれるごと「は…ッ」と短い呼吸を口からもらすが、全く嬌声をあげない。
それこそ彼の90度に近く曲がった股関節を掴まれ、バコバコ男に「犯されている」としかいえない状態で、今もむしろ不自然なほどに彼は声を押しとどめている。
そう――このときユンファさんは、こといつも以上に息を潜め、その無抵抗を強いられた肉体に激しく攻め入られてはあっと思わずあがりそうになる声を、唇に血がにじむほど必死になって殺していたのだ。
それは一体、なぜなのか――?
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